曉号納車2周年に考える、ND5RCに課せられた密命

H田さん、これからもよろしくです!
曉号の当スタジオ着任は2022年7月11日だった。2周年である。マツダ ロードスターND5RC(以下ND)を買うと決めた時は、FRレイアウト車両の旋回動作を身に付けられると無邪気にわくわくしていた。まぁ無邪気にわくわくするのは悪いことではない。FX(次期主力戦闘機)をNDに決定した理由の何分の一かは、「旋回教習車」だった。だから購入直後は「これでオレも少しは旋回がうまくなるに違いない」と秘かにほくそ笑んでいた。阿呆である。鍛練無しに技術が身に付くはずがない。現実には2年経った今でも定常円旋回なんかできないし、なんならクローズドコースへの持ち込みも未経験である。20年以上運転し続けてきたFFレイアウト車両とは根本的に旋回メソッドが違うことを体感したのみである。2年経った今でも、いざと言う時にはケツを自在に流せるくらいにはなりたいな、などという能天気な希望?目標?は遥か彼方の先である。
FRならではの動作を体得できていないのは、もちろん筆者生来の怠け癖故である。だがNDだってイケナイのだ。だってこんなに直進が気持ち良い。するする・くるくる回したくならないのは筆者の運転技術が低いためだけではない(と言い張ってみる)。旋回教習車を買ったつもりが直進が気持ち良くて困惑というエントリーを過去にもアップしている。もちろん自動車がビシッと直進するのは美点である。またA-Sudさんより17インチホイールと、たまたまそのホイールに履かせっぱなしになっていたミシュラン パイロットスーパースポーツを譲っていただき装着してから直進安定指向はさらに色濃くなった。曉号は真っすぐ走っているだけで気持ち良い。誤解無きようお願いするが、NDは決して曲がらないクルマではない。日々、公道の交差点を20km/hで右左折するだけで「ん、狙ったラインどおり。オレ、曲がるのうまいな」と錯覚させてくれる。だがNA/NB/NCまでの「あ、電子制御安全デバイスをカットしたら、右足とステアリングのキッカケだけでクルッと行けそう!」という腰の軽さは感じにくい。これは筆者の技量の問題だけではないと思う。前述の腰の軽さは本来ロードスターの美点と認識されてきた。後述する齟齬を敢えて容認する調律をマツダは施したのではないか?という疑念が、この2年間頭を離れない。
NA/NB/NC原理主義者たちに阿る「原点回帰」「人馬一体」だけでは、ロードスターは早晩息絶えてしまう。NDにはこれまで縁の無かった、あるいは遠巻きにロードスターを眺めるだけだった「未来のオーナー」を、ひとりでも多く生み出すという密命があるのではないか。

去る2024年5月の弊ブログ主催オフ会にて、参加してくださったProfumo姐さんの124スパイダーを試乗させていただいた。姐さんの個体はアンダーブレースやタワーバー/フロアクロスバーを追加装着しており、ほぼ純正状態にアンダーブレースだけを装着した筆者の曉号と同じ方向でチューニングされた強化版と言える。いやむしろ筆者はオープンボディのある種の「緩さ」を愛してもいるので、タワーバーなどエンジンルーム廻りの剛性補強のオプションパーツ装着を敢えて見送っている。「でもアンダーブレースは付けたんでしょ?緩いのが好きなの?硬いのが好きなの?はっきりしろよ」と思われる読者も多かろうが、人間そんなに何もかもはっきりと区別できないよ!と開き直ってみたい。実際にアンダーブレースを装着してみれば、剛性感は増し後輪に伝わる駆動力のロスも明らかに減り、結果的にオイル種別替えの効果すらはっきり体感できるほど車両感覚の解像度は上がり動力性能が好転したのだから、発言に一貫性がないなどと後ろ指を指されても、アンダーブレース装着の快感を手放すつもりはない。話が逸れたが、そういう曉号と姐さんの124は狙い所は同じ方向を向いており、となると分かりやすい相違点はターボ過給マルチエアエンジンの搭載とフロント・リアのスキンチェンジのみと言える。本当は恐らく足周りのセッティングも異なっていると思われるが、それはきっとNDのRFグレードの転用だろうとフィアットの仕事を筆者は舐めているので、そのことは今回は考えない。

デカールとかネイルとか
実際姐さんの個体を試乗させてもらうと、あぁ重いなというのが動き出し1秒間の素直な感想である。重くなったボディを1.4Lマルチエアがグイと前に進める。もっと加速が欲しければターボが後押ししてくれる。痛痒などない。NDは軽さというアドバンテージを非力なエンジンが食いつぶす。そういう印象の違いはあるにはある。つまり1t切りを胃に穴が開きそうなレベルでヒーコラ追求したマツダとは異なり、フィアットは始めから屋根開きの快感を付与したツアラーであり、パワーでリアを流すタイプのクルマとして124をリリースしたのだ。
フィアットはうまいことやったなとは思う。カッコイイ屋根開きグルマ、久しぶりのスパイダーという名跡の復活。原点回帰を謳い苦労に苦労を重ねてライトウェイトスポーツの本懐を守ろうとしたマツダに対して、この軽い考え方は失礼なんじゃね?とすら思ったりもした。だがこの視点こそ視野狭窄ではないか?と気付くと、NDにはまったく違う側面があることに気が付く。
大きく重くなったと揶揄された先代NCから面目を一新することがND5RC開発の大命題だったと思う。いや、運転好きのヘンタイであればこそ、そうであってほしいと視点がそっちに引っ張られる。実際NDに乗れば、ストレスのほとんどないその運転環境の素晴らしさと、自動車としてのパッケージの高い完成度にはすぐに気が付く。外寸法もホイールベースも、その数値に心躍るヘンタイは多いと思う。が、「ストレスないリラックスした運転環境」「軽くて小さいボディ」「屋根が開くという特殊性」と言語化していくと、自動車にあまり興味がない人、運転技術向上にさほど興味がない人、人とは違うクルマに乗ってみたい目利きの人など、ヘンタイとはベクトルの違う人たちにもポジティブに捉えられるのではないか。実際高齢の女性が運転生活最後の1台としてNDを選んだという記事を先日読んだ。あぁやっぱりと思った。
原点回帰を掲げ実際にそれを達成し、人馬一体と繰り返し広報することでロードスター原理主義者たちの溜飲を下げる。だがその陰で自転・公転運動の感知性能には齟齬を許した。エンジン搭載位置を150mm後退させ同時に運転席=運転手の頭を150mm後退させた。2,310mmのホイールベース内で150mm下がるのは割り合いとしてかなり大きい。歴代ロードスターの中でNDだけは運転手の頭がホイールベース中央にいない。一方でマツダ最新のデザイン言語で外皮を調え、新世代ロードスターを装う。そこで屋根開きのセカンドカーとしての役目を期待するシニア層や、おしゃれな足として購入を考える女性オーナーを本気で取り込むという役割をNDに託していると筆者は考える。フィアットはその辺を敏感に察知したからこそ、まずはカッコ良くなるように124のエクステリアを整え、多少重くなってもパワーを付与したのだ。だってNDの990SやSパッケージではパワー至上主義の北米で売れないではないか(もちろんマツダもそれじゃ困るからRFグレードを用意しているのだし)。
ロードスターの製造継続のためのマツダの戦略を筆者は歓迎する。筆者が生きている間に「マツダ、ロードスター次世代モデル開発断念。終売へ」なんて見出しは絶対に見たくない。ライヴも一段落したから真夏のひとりツーリングに躊躇はない。これからもよろしく頼むぜ、曉号。

acatsuki様
かつて124に乗り始めて間もなくの頃、狂人に追突され、その後I社のTさんに「代車は何がいいですか、せっかくだから乗り比べされたらどうですか?」とお話しいただき、ロードスター(ND)を貸していただきました。(AT車でしたけど。)当時、124の交換パーツがなかなか入ってこず、2か月ぐらいはロードスターに乗ったと思います。年末年始をまたいだので、雪が降った日もありました。当時、確かに、124に比べると非力だなぁ…とは感じましたが、今にして思えば、変な(余計な)じゃじゃ馬感がなく、素直で運転しやすかったとも思い出します。冬道でも安心でした。124で牡鹿半島とか蔵王とか走りましたが、ロードスターではまた違った味わいになるような気がします。なんか私のクルマ人生って、acatsuki様を追いかけているような気がしてなりません。やっぱりパイセンの称号はacastuki様の方かもしれません。(笑)
ATのNDなら非力感はやや増しだったであろうと想像いたします。非力っちゅーか、たおやかと言うか(笑)。ブログ本分では未開拓領域のオーナー獲得が使命みたいに書きましたが、NCまでの系譜を継ごうという気合いは当然充分込められているとも感じます。そうすると「軽く」するためにあれこれ盛れなかったんだろうなぁとは思います。素直で運転しやすく調律していった反面、「もうそうせざるを得ないんじゃあー」という面もあったんじゃないかなと。
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日産がクルーを、トヨタがコンフォートを、それぞれタクシー用ベース車両として売っていましたが、あれはタクシー車両だからオーナーの趣味性を徹底的に削いでいたじゃないですか。本質的にはロードスターも同じで、旋回運動性能を上げるためなら、販売促進には必要でも華美な装備は搭載しませんってことですから。ナビ?スマホあるじゃんってわけです。エンジン性能も華美な装備もギリギリまで落として、ごく狭い領域でだけ水を得た魚のように走ることができるクルマ、それがNDだと思います。
この話是非次回の邂逅で続きを!現在自分もライトウェイトスポーツ乗りの端くれとして思うは、ロードスターは現状MAZDAしか作れない、日本車メーカーは4Cは作れないのではなく作らない、ですかね。デザインはともかく同じ構造なら4CクラスはTOYOTAあたりは700位でサクッと内製で作れそう。つまりロードスターは生き残る、が自分のロードスター論?です。
ぜひぜひ千葉にて。ロードスターとてやっぱりプラグインだEVだみたいな論争と無縁ではいられない……のは仕方ないと思っております。でもやっぱり次世代機も内燃機関で出してほしいと個人的には強く思います。そのために曲がっても面白いけどのんびり走ってもすげえいいですよ!という味付けにしたのだと信じたい。そうやって細々とでもファンを増やして作り続けたい、とマツダは思ってくれているんじゃないかなぁ。そうだといいなぁ。
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確かにライトウェイトスポーツって風前の灯火だけど、シツコク生き残ってる(笑)。地球環境にも人様にも迷惑かけないから、燃費だの合理性で自動車を捉えたい人は見ないでくれ、と(笑)。視界に入れないでくれ、と(笑)。我々は狭い世界で楽しく生きて行くので放っておいてくれ、という心境です。
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たぶんこの話は700万円で4Cみたいなクルマをトヨタが作れるか、という話と表裏一体の話だと思うので、ぜひライブでお話ししたいです!
ようやく開陳されましたな。お待ちしておりました!
NDに乗っただけで、自在にケツを流せるようになんぞなるかぁーーー!あたしゃ3年間40回レッスンで四苦八苦して、それでも自在になんぞ滑らせられないわ。FRだから、しかもライトウェイトだから容易にリアが出ちゃうけど、それをコントロールできるかは別の話よね。そんな機体なのに、気持ちよくまっすぐ走ってくれるのは、ホントすごいと思っとります。
この文章を拝読して、先日のチャットの時、ご質問の意図を誤解していたかもしれないと思いました。というのも…続きは千葉で。
リア出やすいのと、その先をコントロールできるかどうかはまったく別問題……ということも、なんか、よくわかってないわけですよ!(笑)。なんかこう、MacBook Pro買ってきたからオレにもすごい映像作品ができる!という勘違いと同じ。
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このエントリー、結局3本書き潰して4本目ですから。自分でもちょっと省略しすぎた部分とクドく書いてる部分がまだらになってて、言いたいことがちゃんと伝わっているか不安なエントリーになってしまいました。