試乗記・日産 マーチ1.5 nismo S – 透明な高性能
2024年10月下旬に行われた宇都宮オフ会では恒例の「誰かのクルマ、大試乗大会」になった。筆者は数台のクルマを運転させていただいたが、これらが揃いも揃ってそのクルマの狙いどおりの超絶尖った1台ばかりだった。記憶が新しいうちにまとめておく。まずはじゅんすかさんの日産 日産 マーチ1.5 nismo Sから。
ネガティブな先入観にここまで裏切られる体験も珍しい。水道水かと思ってゴクッと一口飲んだら良く冷えた谷川の清流の水だった!何これうめえ!!みたいな。とにかくクルマの運転が好きな人でこのクルマを悪く言える人はほぼいないと思う。
アルファロメオ 4C乗りのじゅんすかさんは日々の足として同社のMiToに乗っていた。いや乗っていたなんてレベルではなく、総走行距離20万kmオーバーだったというから正に身体の一部と言っていい。とうとうMiToを手放す時が来て、次の足グルマとして採用されたのがこの日産 日産 マーチ1.5 nismo Sだった。
●1.5Lガソリンエンジン
●自然吸気
●5MT
●車重1t切り
●FF
最後の駆動方式が前後逆ならほとんどND5RCロードスターと同じスペックではないか。動き出して最初の10mでまずそのボディの硬さを思い知ることになる。単なるガチガチではなく、最後はモノコックボディのどこかに衝撃や捩れをうまく逃がして運転手には伝えない。衝撃を跳ね返すというよりも恐ろしく吸収が速い。そんなボディ。そこに5MTで操るNAエンジンがごく素直に回転数を上げて行く。脚色のない加速は速い遅いの前にその素直な加速曲線が嬉しい。うわ!何この足……硬っ!!路面アンジュレーションはまだ問題ないが、開いてる穴にちょっとでも足が乗ると、ガチッと跳ね返す。そこで前述のボディの硬さがまた良い仕事をするわけだ。どうも1.5 nismo S、公道よりもクローズド環境にフォーカスを合わせているフシがある。油圧なのか電子制御なのかわからなかったが、パワーステアリングも微舵領域から一切これ嘘がない。それでいてするすると軽薄に動くのではなく、首尾一貫した重さを提供する。で、そういう動力性能を御すための制動性能もどこにもピークはなく、リニアリティ満点で速度ゼロまで落とせる。
走りながらこれらの印象をまとめると、透明感のある速さ。どうしてこのクルマがこう動くのか、何も隠さず各要素が実直に運転手に現状を報告してくる。そこにはおためごかしの安全のための電子制御や、作り手の我がままみたいなものは感じられない。自分の経験したクルマの中から一番近い物を挙げるとすればアバルト プントエヴォ。きっと目指す物は近しいのだが、イタリア人は加速、旋回、制動、どの要素にも乗り手を喜ばせる種を仕込んでいた。言うなればアバルトはプロレス。一方nismo Sは居合切り。どちらが良いというのではなくイタリア人と日本人の、「良いクルマ」の基準の違いなのだろう。
唯一残念なのがシフトノブの動き。12SRも最後の最後までトランスミッションには手を入れられなかったらしいが、そんなことまで継承しなくても良い。もっとゲートに節度があって、ショートストロークだったら言うことないんだが……。でも短時間の試乗で挙げられるネガティブポイントは本当にそこだけだ。素晴らしいクルマだ。
以下は試乗前の筆者が抱いていた先入観の内容だから、ナナメ読みでかまわない。正直なところ、この現行K13系マーチをベースにしたnismoチューンドバージョンを、筆者は舐めていた。とにかくそのデビューから散々だった。日本でのデビューよりもタイでの発表が先で、あちらのニーズに沿って動力性能は最低限、内装も極めて質素。何よりももはやマーチが日本市場をメインに考えられていないということがショックだった。熱心な自動車ジャーナリストの中には、わざわざあちらまで出向いて試乗しようとした人もいたらしいが、逆にタイの日産ディーラーには「試乗目的のジャーナリストは相手にしないように」というお触れまで出たという。タタ ナノの例もあるが、つまりはとにかく安いことが優先される当地のモータリゼーションをターゲットにしたクルマに、マーチは成り下がったのだと筆者は考えていた。
で、12SRよろしく今度はnismoバージョンが出た、と。13SRを名乗らなかったのは12はオーテック物件だったからか。ユーザーには無縁な日産社内の派閥争いは未だに尾を引いているのか……と、車名からも根深いプリンス自動車組との軋轢を垣間見る思いだった。そんなK13系マーチである。nismoが関わろうが元の出来が悪ければ底上げしたところで高が知れている。そもそもオフ会会場に1.5 nismo Sが停っていても、参加者のクルマだとは思っていなかった。じゅんすかさんの新足グルマだよと教えられて心底驚いた。うろ覚えなのでここには書かないが、じゅんすかさんのクルマ遍歴はすごい。ひとり湾岸ミッドナイトというか、男のロマンというか。走り屋御用達グルマを一通り乗られているのではないか。そのじゅんすかさんが選りにもよって(nismoバージョンとは言え)K13系マーチかよ。だから挨拶もそこそこに試乗させてくださいと願い出た次第。結果は書いたとおり。
距離を走ってしまった個体とか、シゴキにシゴかれてくびれてしまった物件を避けつつ12SRにこだわってお宝探しをするよりも、K13系nismo Sは現世利益山盛りである。もう伝説は伝説でいいじゃないか。ちなみに1.2 nismoというモデルもあって、そっちは1.2LでCVTだという。もちろんそっちよりもS付きの方が刺激的であろうことは間違いない。ご注意を。じゅんすかさん、ありがとうございました。ご安全に楽しんでください!
早速ありがとうございます!そうなんです、ベースのマーチが酷評されているのでどうかな~、とか先代12SRには及ばないないかな〜、という思いはあったんですが、走りに振った車としてはかなり「気持ち良い」のでは、と自負しております。エンジンやサスに大幅に手が入っているのは勿論なんですが、A様おっしゃる通り一番手が入っているのはボディだと思います。新車カタログだと補強は床下中心に必要最低限っぽいんですが、メーカーならではのノウハウの賜物かと。チープな造りによるベースモデルが軽量なのも逆に好影響?とにかくこれこそ「やっちゃえ日産」(笑)。足回りはステージの想定絞ってますかね~?もう少し穏やかでも良いかなと思いますがちょーななと話した時も、サスの守備範囲広げるとクルマがボヤける、という結論になりました。シフトは構造的な問題もあるようです。詳しいことはわからないけどCVTありきの造りが影響しているようです。「ひとり湾岸ミッドナイト」ありがとうございます、自分には最大の褒め言葉です(笑)。まあ裏を返すと「間違えっ放しのクルマ選び」ですが30Zと964ターボは乗ってないからギリギリセーフということで(笑)。
セーフかどうかはわからないですが、毎度じゅんすかさんの車偏歴を伺うとビビります(笑)。
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あの短時間の試乗ではボディのどの辺に手が入っているのかまったく解りませんでしたが(そしてもっと長時間乗ってもきっと解らない)、跳ね返すのではなくどこかに逃がすことで衝撃の収束を早めているという印象は、おそらく意図的に全部を固めているわけじゃないとは思います。床下だけでああなるなら、nismo恐るべしです。で、足。「サスの守備範囲広げるとクルマがボヤける」!その発想はなかった!確かにおっしゃるとおりかもしれません。あの爽やかな硬さは、足のあの硬さあっての印象なのかもしれません。
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しかし返す返すもシフトは惜しい。サードパーティーから後付けショートストロークシフトキットとか出てないんですかねぇ。ストロークは諦めても、せめてゲートの入り口のところにもう少し精密感があるだけで印象ががらっと変わると思います。でもやっぱり日本人の考える速いクルマって感じですね。ストイックこそ最上みたいな価値観の下でチューニングされている印象です。
先日のオフ会では、他のクルマに乗ると4cにようやく慣れた感覚が失われてしまうのではないかと思って、じゅんすかさん4c以外は運転させていただかなかったのですが、こんなレポートを拝見すると乗っておけばよかったー、と思っちゃう。
別に毛嫌いしてるわけではないのですがなかなか縁のない国産車、最近とみに奥深さを感じます。すごいところはほんとにすごいのにわかりにくいのが私にとっては難点です。それで派手にわかりやすいイタ車に傾倒してしまうのかな。そのあたりもうちょい突っ込んで考えてみたいものです。
オレだって4C、マーチ、アルピナB3と触れ幅大きすぎな試乗メニューで脳みそオーバーヒートでしたから。でも「すごいところはほんとにすごいのにわかりにくい」っていうのはよくわかります。日本人ってすごいの作ろうとすると「研ぎ澄ます」とか「削ぎ落とす」とか、とにかくストイック方面に爆走しちゃうんですよね。でもイタリア車は性能を上乗せした上で人間の生理的に気持ち良いところをピンポイントでつぼ押ししてくるというか、どうすると気持ち良いかわかっててそこは外さない感じがします。削ぐんじゃなくて付け加えるの。電子楽器系、例えばギターのエフェクターなんかも同じ傾向があると思ってます。日本のメーカーの上位版ってとにかくストイック。でも欧米の機材は「味わいをわざと加えてくる」感じです。オーディオケーブルもそうだなぁ。
宇都宮行きたかったのですが仕事予定のため残念でした。コアなクルマと試乗体験は羨ましい限り!
たしかにK13マーチは国内で話題になることは少なかったように思いますが、クルマ自体の良し悪しとは直接関係なかったり東南アジア製ってところが妙な先入観を助長したのではと想像しています。自動車評論家なんてのも人間だし、レベルはピンキリだと思っています。今やタイは巨大自動車生産・輸出国に成り上がっていますし、製造品質で国産と比べるのはもはやナンセンスですね。もし何か懸念があるならnismoがベース車両に選定するのか?という疑問もあります。
先代12SRは一部でマーチカップカーの公道バージョンみたいな言われ方をしていましたが、乗った感じでは全然そんなことはなくて楽しくて軽いホットハッチという印象でした。クルマのネーミングにはいろいろ大人の事情がありそうですが、12SRよりも「カップカーの公道バージョン」に近付けたからnismoを名乗ったのではと勝手に解釈しています。先代との比較を嫌って名前変えたのかもしれないです。
タイって今そんなことになっているのですか。自動車雑誌読まなくなって、そういうニュースや記事を読まなくなっちまったなぁ……。ネットのクルマの記事を読むと言っても、「読みたいものだけ選んで読む」が基本ですからねぇ。勉強不足です。
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12SRは作り手の考えや巷の評価は別として、「日本にもこういう純米吟醸みたいなクルマがあるのか!」という驚きがありました。とにかく研ぎ澄まされてるなぁという印象が先行して、細かいところは忘れてしまったのですが(笑)。なんでもオーテックはプリンス自動車組の巣窟だそうで、nismoとしちゃあれくらいオレらなら簡単クリアだぜ!みたいな対抗意識があったんじゃないか……と勝手に想像してるんですが、そんな下衆な読みはともかくオレらみたいな人間には良いチョイスだと思います<1.5 nismo S
自分も恥ずかしながらタイ工場って?など先入観ありましたが、ホント良く仕上がってるなあ、と感心してます。エンジン、サス、ボディは勿論、シートもステアリングもシッカリした造りで手抜き感ゼロなのが嬉しいです。お会いするのを楽しみにしてます!