【ちょい乗り】AMG C43 4Matic カブリオレ・文化の尺度、文明足らしめるもの

ひょんなことからkikuchi大先輩のAMG C43を運転させていただく機会を得た。もともとまったく違う目的での会合だったので筆者は戦闘モードに入りきらず、今このテキストをまとめながらあれもこれも確認不足じゃないかと頭を抱えることになっている。こんな筆者でも恐れ多くも人様の愛車、会社がカタログモデルとしてリリースした製品を云々するなら、最低限チェックすべき項目があると思っている。ひとまずそれらを自分なりに消化して、そのクルマを理解する手がかりを探すという手順になるのだが、今回の突発試乗では自分が納得するほどの情報を得損ねてしまった。そこでいつもの「試乗記」に便宜上カテゴライズはするが、どちらかというと「天下のメルセデス・ベンツ製品を人生で初めて運転してみて思い至ったこと」に辿り着くように書いてみようと思う。

2023年4月の伊豆にて。
まだ乗り換え前で2018年モデルの
C43とkikuchi大先輩

※人生初試乗とは書いたが、数年前に道の駅の駐車場をぐるっと1周させていただいたことはある。が、そんなの試乗とは言えないよなぁ。

メルセデス・ベンツAMG C43 4MATIC カブリオレ(A205系)
全長 4,700mm
全幅 1,810mm
全高 1,415mm
重量 1,880kg
ホイールベース 2,840mm
ガソリン2,996cc V型6気筒DOHCビターボ
フルタイム4輪駆動
9AT

個体の年式、総走行距離など確認し忘れ。ネットで確認してみると大先輩の現在の個体は2020年リリースらしい。「4名乗車可」「屋根開き可」「4駆」などが大先輩の譲れない購入条件。これらは今も変わらないため後継車種選考時の選択肢を著しく狭めている(笑)。だが大先輩はあれがほしいこれがほしいと常に口にして、実際ポルシェ 911カブリオレの本気試乗を試みたこともあった

マカンのお出まし
911試乗じゃないの?と思った方は
上記リンク先をお読みください

そういう話を聞くたびに筆者は買い替える必要あんの??とかねがね思っていた。改めて上記スペックを眺めていると、ワインディングランデブー時の「登りは良いんだけどさ、下りはねぇ」という大先輩のボヤきももっともだと理解できる。3リッターV6でツインターボとくればそりゃたいていの登坂はパワーで押し切れるだろうけど、下りは特にそのホイールベース長から、速く走るためのブレーキワークが求められると思われる。いや、実際そうだった。でもワインディングの下りに気を使うからC43降りるわという人はいまい。もちろん反証事例もあって、そのホイールベース長ゆえクルコンを一度設定してしまえば、高速道路走行は天国らしい。Bセグメント実用FF車ばかり乗り継いできた筆者には想像の範囲外としか言いようがない。

今回の試乗はすべて一般公道で、郊外の平坦地、上り下りが交互に頻出する山道の舗装路、下りのワインディングロードと、とりあえずそのクルマの性格をさっくり把握可能な場所は走ることができた。まずは運転席に着座しての第一印象から。ポジションは大先輩のセッティングをほとんど弄らなかった。背もたれ角度をやや寝せたくらい。座面はけっこう高めに設定されていて、その状態でペダルとのアクセスもハンドルの握りもメーター視認もストレスがない。助手席は反対にまるでボディに潜るような座面の低さだったので、もっと低めに座るセッティングも追い込めたのかもしれないが、ボディ全体の見切りの良さから下手に下げるのは悪手と判断した。ハンドルやペダルのオフセットも意識せず。

そんなあれこれよりも印象的だったのは、ドアをドスッと閉めた瞬間に実感するボディの硬さ。そして室内の静かさ。クルマはすでにスポーツプラスモードに入っていて、マフラーのエキゾーストノートが野太く、かつボリュームやや大きめに変化済みの状態なのだが。改めてこれ、カブリオレですよね?である。数年前に実は後部座席を体験させていただいたことがあり、その時も静寂性には驚いたのだが運転席着席時にはボディ剛性の塩梅まで感じることができる。こういう細かい体感情報から「あぁ、お高いクルマに乗ってるんだなぁ」と実感する。ドアの開閉やスイッチ類の反応、目に映るダッシュボードやトリム類の高品質感。特に思い込みがなくてもジワジワ伝わってくるものだ。

走り出してみる。この年式ですでにシフトセレクターは国産車で言えばウィンカーレバーの位置にあり、その独特の操作メソッドに戸惑ったが、とにかく1速に入ってしまえばこっちのものだ。Aペダルの入力に遅滞なくエンジン出力が湧出する。まずは平坦地の緩いコーナーと直線の組み合わせ路。まずニヤリとするのはハンドルやペダル類の「遊び」の少なさ。操作子に「ダル」という要素はゼロだが、かと言って神経質なほどの高速反応というわけではない。スポーツプラス状態とは言え軸足はやはり「コンフォート=快適」に置かれている。快適高性能車として高い次元にいるC43 カブリオレを興味の赴くまま運転するとどうなるかというと、あっという間に予想以上の速度が出てしまう。ゴキゲンで走らせつつ速度計をちらり見て驚き、あわててAペダルを抜くこと数回。この後もう少し負荷の高い環境でも敢えてその辺を確認してみたが、結論、C43は免許を危険に晒すクルマである。

少なくとも今回の試乗は速いか遅いかは重要ではない(速いに決まってるしね)。以降は各動作の解像度を確かめる方向で運転した。この後登りメインのワインディングロードに入っていくのだが、オーナーの感想同様、登坂角度をものともしない。その加速を裏支えしているのは4マティックこと4輪駆動システムで、すでにスタッドレスタイヤに履き替えられていた上に路面はウェット+落ち葉の絨毯が路肩に続く環境。にも関わらずグイグイ登り、インでもアウトでもラインは選び放題。筆者にとっての限界速度で登っても平然としている。「まだ速度出せるのか!」と運転席で筆者が驚くと、助手席で大先輩が「行ける。まだまだイケるよ!」と煽る。や、もちろん自重しましたけどね。あー、これノムラさんのアウディ TTSクーペでもまったく同じ体験をしたなぁ。この「技術を重畳させて未体験ゾーンに連れていく」思想は、積分思考のドイツプロダクトに共通なのかもしれない。C43は自分の限界を底上げしてくれるが、その高性能っぷりにはあまり中毒性はなく、余裕と快適性を楽しむための精神的背景として脇役に徹しているように思う。この「やる気になればいつでもやれますよ、あたしゃ」という心の余裕が自動車には大事だ。常に本当の限界ギリギリで走るなんて一般公道では無理だし、普通の運転手の精神では耐えられない。その点C43の余裕っぷりは4LDKのひとり暮らしみたいで、人によっては持て余す……とまでは言わないが、もうちょっとヒリヒリした要素も欲しいと思うこともあるかもしれない(大先輩は今まさにこの精神状態なのでしょう)。

大先輩はこのC43で関東に北海道にと、ロングツーリングでその快適性を満喫しておられる。4名フル乗車での遠乗りも時々はあるという。お話を伺えばそのライフスタイルにC43というクルマが多いに関わっていることがよくわかる。良いクルマは人生観や人生そのものを変えてしまうものだが、ここにもその1例がある。

まとめるとAMG C43とは
・カブリオレとは思えぬ静寂性
・ロングホイールベースから来る安楽な高速走行
・余剰溢れる動力性能
・4WDを背景とした高い旋回性能
・AMGというブランド力

ということになる。一方で

・現実の市街地走行にはやや持て余すボディサイズ
・2ドアクーペボディ不可避の後席アクセス不良
・重量とパワーの倍々ゲーム
・AMGという地方都市では嫉みの対象足り得るステータス

という見方もできる。

この1台で全方位的に大満足というクルマは存在しない。特にクルマ好き、クルマの運転好きにとっては。では冒頭に戻って「4名乗車可」「屋根開き可」「4駆」というkikuchi家特有の購入条件を満たすオルタナティブがどれだけあろうか。おそらくkikuchi大先輩が販売契約書に一発でハンコを押す代替機は「ポルシェ パナメーラ カブリオレ」だけだろう。しかしそんなクルマはこの世に存在しない。C43のようなほぼ全方位的に文句の付けようがないクルマを、消去法で乗り続けるしかない大先輩は幸せなのか不幸なのか。筆者にはおそらく永遠にわからないだろう。

今回のちょい乗りでC43 カブリオレを正しく全体的に理解できたとは思えないが、その運転中の高い快適性からひとつ思い至ったことがある。

かつて欧州車の主要ブランドはスーツで運転するべきクルマ、すなわちセダンが主力商品だった。だからこそカンパニーカーという制度も広まり定着しているのだろう。以下は筆者の想像でしかないが、さらに加えて今も確実に残るという身分制度の残滓やバカンスの風習などの背景から、それらお堅いセダンに遊び心を加えたカブリオレ、コンバーチブル、シューティングブレークなどのモデルが、D/E/Lセグメントに各1モデルずつちゃんと配備されていた。そういうちょっと砕けたモデルは、成熟した文化という背景がなければ生まれないし存続できない。屋根開きグルマとはその圏内の文化成熟度の尺度であり、ぐっと視点を引いてみれば成熟した文化圏が長く存続することが、人間の生活、営みを「文明」足らしめる。

2024年末の現在、自動車の世界をぐるりと見渡すと、カブリオレやコンバーチブルモデルなどの余剰モデルは完全にSUVに置き換わってしまった。仕事に遊びに使えるんだから、同じジャンルのクルマでしょ?などとと言う人もいるかもしれないが、両車は全く違う。先述したように屋根開きグルマはネクタイを外して素足に革靴を履いたエスタブリッシュであり、反対にアーバンSUVは遊び人が慣れないスーツを着込んだなんちゃってビジネスマンである。氏育ちが違うのだから入れ替わることなどできない。

C43 カブリオレは正しく「余剰品」であり、もはや自動車界の風前の灯火である。kikuchi大先輩におかれましては安易に「さ、次は何に乗ろうかな」などと舌なめずりをせずに、メインテナンスに手を抜かず、適当に負荷をかけ続けて美しい動態保存を心がけていただきたく外野はお願いするものであります。試乗させていただきありがとうございました。

6件のコメント

  • こんにちは。ご試乗いただきありがとうございました。いつもほかの車に乗り換える事ばかり考えているkikuchiです。今回の試乗記を読んで、その煩悩がかなり減りました。まだ0ではないですが、ずっと乗ろうという気持ちになりました。
    因みに後席へのアクセスが面倒なのは私は気になりません。年に数回だけだからです。それよりも荷物置き場があるという事の方が長所として感じられます。
    あとは、AMGがやっかみになるかというとそうではないのでは?と思います。勤めていた時に、何でもご存じの先輩から屋根がなんで黒いの?と聞かれたくらいで、今の時代車に対する関心は昔より数段低くなっていると感じます。ベンツがいたずらされるなんていうのはほとんどないとディーラーの担当に言われます。これが良い事なのか悪い事なのか分かりませんが、とにかくそういう時代なんですね。だから好きな車に好きな時に乗る、これでいきたいと思います。
    試乗記をアップして頂きありがとうございました。

    • こちらこそハンドルを握らせていただきありがとうございました。今となってはとても貴重なモデルだと思います。
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      後席へのアクセス、幌を開けていれば大した問題ではないと思います。実体験として幌をかけた状態で後席に乗り込むのにちょっと大変だなと思ったものですから(笑)。ま、年に数回ならおっしゃるとおり無視して良い項目でしょう。
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      高級外車へのやっかみの件、仙台市内などは確かにもう昔の話なのかもしれませんが、郡部に行けばまだリアルな話だと思います。クルマに興味のない人でも「ガイシャ」はけっこう敏感に感じ取るようです。またこれは偏見かもしれませんが、そういうのに敏感なのって女性が多いと思います。郡部では隣近所、女性同士のネットワークって活発だと思うので、やり玉に上がるような気がします。だからと言って嫌がらせがあるとも思えませんが。
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      そういう小さなあれこれよりも、とにかく快適性をベースに運動性能と屋根開きという付加価値ありの素晴らしいクルマでした。アルピナとは別ベクトルの「終のクルマ」だと思います。うらやましい。

  • 「ドアの開閉やスイッチ類の反応、目に映るダッシュボードやトリム類の高品質感。特に思い込みがなくてもジワジワ伝わってくるものだ。」高品質感!まさにこれ!豪華ではない、派手でもない、が見る者を納得させる!工芸品ではなく工業製品としての最上級、みたいなところに惹かれているユーザーも多いのではないでしょうか。

    • ちゃんと見る目がないとレクサスとメルセデスの差なんてわからないとは思います。メルセデス・ベンツとかアルピナとか、何台か乗り継いで別のクルマに乗り換えると「あれ?……なんか……ちょっと……」と前に乗っていたクルマの高品質感が初めてわかる。そんな高品質のように思います。運転席に座るじゃないですか。別に圧倒されるような豪華さじゃないんですよね(圧倒される豪華さとは例えばパガーニ ウアイラのコクピットみたいなやつです)。でも違うクルマを見れば「あ、メルセデス・ベンツってすごいんだな」とわかる、みたいな。
      ___
      あのすごい動力性能や旋回能力も、これ見よがしじゃなくて「必要なんでこういう風にしておきました」みたいな感じなんですよ。ある意味で大人な乗り物です。

  • わかるなぁ、出自の違い。名家の方と成金の違い的な。言い過ぎ?
    メルセデスはほんと、しっとり上質ですよね。何がどう、じゃなくて肌感でわかるみたいな。
    ますます、クルマに求めるものって一体なんだろう、って考察が深くなります。はい。

    • いくら製造コストカット、効率化重視に変わっちまったと言われても、そもそも自分は80年代までの「重厚な乗り味」みたいなヤツを経験してませんから。で、仮に大きく品質が変わってしまったんだとしても、やっぱり「出自の違い」は充分感じます。逆にレクサスなんかがそのフィールドで勝負しようと思ったらああするしかないんだなというのも、やっぱりうっすらわかっちゃう感じです。積み重ねた歴史というのは大きいですね。
      ____
      NDロードスターに乗っている今、クルマに求めるものはけっこう楽に言語化できそうな気がします。正しい運転動作をできる着座環境と応答性ですね。このふたつが揃っていればサイズの大小や最高速度とかはあまり気にならないように思います。

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