アルファロメオ 159を考える・その1
今後激増することが確定している、体調不良の高齢者の通院補助を目的に過走行(約12万km)のアルファロメオ 159を購入したのは既報のとおり。
アルファロメオ 159 3.2 JTS Q4 Q-TRONIC Ti登場!
159は2006年日本導入。その印象記に需要が無いことは明らかだが、ある一点で159はアルファロメオのトップレンジセダンの潮流から外れたものになっている。そのことはFRレイアウトのジュリアが現行ラインナップに居る2025年の今でも変わらない。159だけが特別なのだ。なぜ特別なのか。それは159のプラットフォームだけが外部との協業で作られたからだ。90年代後半からアルファロメオは北米=アメリカでの再販売を目論見、そのプラットフォームをGMと共同開発した。つまり159は北米=アメリカの道路事情やアメリカ人の基本的な自動車評基準に目配せしつつ仕立てられた。近年を振り返っても、アルファブランドの基幹(売れ筋)セダンは75、155、156と駆動方式の違いこそあれ、安易に豪奢なキャラクターにはならず、あくまで歴史あるレース活動の面影を残した「刺激的な動的性能」を売りにしていたと言える。また車体のサイズという視点からも、例えばドイツブランドのBMWやMBと比較するとせいぜい3シリーズやC/Eクラス程度との競合であり、明らかに5や7、Sなどのレンジは164、166に任せて無視している。その上で狙っていたのは刺激的な動力性能だったし、運転席からの眺めもまるで戦闘機さながら、あくまでドライバー至上主義で構成されていた。そこにはおそらくグループ同族のマセラティへの配慮があったはずだ。ビトゥルボやクアトロポルテの領域を侵すなという販売計画があったと思われる(もしかすると同じプラットフォームを使って166の後継を計画してはいたのかもしれない)。しかしそんなことは承知の上で、「セダンなのに走れる」という二面性にイタフラ車好きはシビレて憧れたのである。159は敢えてその潮流と距離をおいて仕立てられた。164、166がラインナップから消え去って、そのレンジも同時に任されたようにも感じられる。そんな特有の事情を背景に紐解けば、その印象記もまったく意味がないわけではないだろう。感情的に言えば159はその乗り味を誰かに話したくて仕方ないクルマだ。せっかくオーナーになれたことだし、少し腰を据えて印象記を書いてみようと思う。
例によって冗長すぎるテキスト量になるのは必定なので、
運転環境(本稿)
加速
旋回
制動
の各要素に分けて書いていこうと思う。
●運転環境●
北米市場に目配せした結果、159はでかい。横幅1,830mmは例えば156の1,755mmと比べても急激な肥大化である。ま、キャデラックやダッジなんかと競合しようというのだから仕方ない。スバル レガシイだって結局北米事情に合わせていった結果、でか過ぎて日本では売れなくなってしまったではないか。この肥大化を以て159を忌避する層がいることは承知の上だが、おかげでRHD環境でもペダルオフセットが皆無なのはもっと注目されていい。車両右側の運転席に座る。メータークラスタとハンドルを見ればシートセンターとピシッと合っているのがすぐにわかる。大柄なアメリカ人の体格を想定しているのだろう、電動シートの座面の調整代もたっぷりあって、身長170cmの筆者など少し底上げした方が良いくらいだ。で、ペダルを探す。すると無意識に置いていた右足のすぐ先にAペダルが待っていてくれる。反対側のフットレストの踏面角度や位置もAペダルときれいに対称に置かれている。この運転席の環境で高速道路を走ると、これがまぁとにかく疲れない。今回購入したモデルのエンジン排気量が3.2Lで、トランスミッションが6ATだということもそこは無関係ではないけれど、基本中の基本、運転姿勢にストレスがないから疲れない。
●シートは語る●
一方で背面のランバーサポートはちょっと物足りない。背面角度を色々と試してはみたが、肩甲骨付近、あるいはその少し下あたりをがっちりサポートするタイプではない。あくまで腰とお尻をやさしくホールドする系の造りだ。つまりシートの造りからして峠道をぎゃん泣きさせつつ走るクルマじゃないですよと運転手に教えてくれる。良いクルマはこうでなくっちゃ。本来は足も上下によく動いて、ある程度ロールを許しつつ旋回動作を作るタイプ(それは有識者が言うアルファ特有の足セッティングであろう)だと想像する。ところが今回購入したモデルはTi、すなわちコスメティックモデルであって、車高を落としている分足の運動範囲は削られている。おかげでカッコは良いが、シートの造りと足の動きがちぐはぐなのだ。アルファも時々こういう邪な仕様を、特にモデルライフ末期にはシレッと出してくる。まぁこっちは知ってて買ったから良いのだけど、本来の3.2Lモデルならもっと足を積極的に動かして159特有の旋回マナーを作っているはずなので、その点は少し残念だ。
●センターコンソールも語る●
もう少し室内を見渡してみる。なんと言っても運転手側に傾斜させたセンターコンソールがかっこいい。油温計、水温計、燃料計が三眼独立メーターとして配されているのも気分があがる。左右のサイズに余裕があるからこういうギミックが絵になるだけでなく、ちゃんと機能として生きている。一方でダッシュボードは平面基調であっさりしている。かろうじて回転・速度計のふたつの山はその平面をものともせず盛り上がって視覚のアクセントになってはいるが、156や147、MiToのようにダッシュボード全体がなだらかな曲線を描くようなエロさはない。ぜひあの味は残しておいてほしかったと思う。
●ハンドル形状●
真円だが左右のちょうど手の平がホールドするあたりにはいくつかの突起がある。9時15分のわずかに上、そして8時20分の位置。これが実に気持ち良い。まずサムレストに親指を合わせる正統派10時10分握りの場合、手の平を最初の突起がサポートする。10:10握りが気持ち良いのでこれだけで正しい運転姿勢の充分な補助となる。一方8時20分の突起は、例えば高速道路を定速で走る場合には「どうせゆるーくホールドするならここをどうぞ」というガイドになっている。159が本当に北米マーケットでそれなりに売れていたら、ユタ州の地平線まで続く砂漠の一本道を走るような場面があるはずで、そんな道を窓を全開にしてのんびり走る時のハンドルの持ち方まで考慮されているのかも、と想像すると嬉しくなる。ちょっと感情過多だが。
●どこに入れろと?●
室内の収納が少ないのは相変わらずだが、まさかグローブボックスに車検証ケースが収まらないとは。結局MiToやプントエヴォと同じくトランクに置く羽目になっている。実害はないが、これはグローブボックスに収まるように車検証入れ、引いては取扱説明書などをデザインしてほしいものですね。
●暗いルームミラー●
現在ルームミラーは純正のままなのだが、どういうわけかこのミラーが暗くて困る。特に夕暮れ時など少し眼を凝らさないと何が写っているのかわからない。調べてみたが防眩機能がオンのまま……というわけでもない(そもそも防眩機能が付いてない)。おまけに画角も狭い。これはとうとうドライブレコーダー付きデジタルミラーを買ってくることになるだろう。不自然に明るいので基本的にはあの手のガジェットは敬遠していたのだが、さすがにこの純正ルームミラーでは安全確保(と警察車両対策)に難があると言わざるを得ない。
●まとめ●
ということで、純粋に運転手の立場から見る159のRHD運転環境は最高と言える(ルームミラーの件は除く)。まったりホールドするキャラクターのシートも、今後書いていく動力性能と対で評価すると実は理にかなっている。そういう健康的な運転環境に収まってフロントガラスの外を見ると、肥大化したと言われるボディの見切りも意外なほど良い。不安なく取り回すことができる。この運転環境を以て味わう加速がまたニヤリ、なるほどねぇと思わず口にせずにいられない。次回は加速動作について書いてみる。
※追記2025-01-13 GMと共同開発したプラットフォーム周辺の考察(冒頭)を整理して書き直しました。
a様史上最セクシーな内装では?アルファの内装の良さは一見カッコつけだけどきちんと機能的なところだと思います(2台しか知らないですが…)。この色気のあるテイスト復活してほしいです。
うーん。自分史上もっともセクシーな内装は156なんですよねぇ。これはもうインプリンティング、最初に見て惚れたからとしか言いようがありません。147とかGTもエロくて最高です。それらと比べると159はエロさは抑えられていて、実力を知っている分「惜しい!」という気持ちがいつもどこかにあります。とは言え身体の線を強調した服だけでイケイケだった20代前半ではなく、スーツやワンピースなど、抑制の効いたセクシーさで魅せる20代後半以降という意味では、159は北米でちゃんと差別化できたはず……とは思います。
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現行ジュリアに至っては3シリーズとかC/Eクラスと勝負しなきゃいけないので、完全にエロ要素が無いですね。残念です。