アルファロメオ 159を考える・その2
それは筆者が体験したことのない加速動作だった。目標の速度に達するためにエンジン、動力駆動、足周りが一体となって働く様子が、ハンドルやシート座面や背面を通じてたっぷりと伝わってきた。どこにもピークがない、159以前の車歴では味わうことができない濃厚な加速動作だった。
単に159と書いているが、筆者が譲り受けた個体は車名を正しく表記するとそのプロフィールが全部解るようになっている。
アルファロメオ 159 3.2JTS Q4 Q-Tronic Ti
呆れるほど情報量が多い名前だが、欧州車、取り分けイタリア車に興味のない人にはアルファベットの羅列であろう。加速動作について主観的な感想を書き連ねるよりも、これら名前の各要素を説明すれば読者各人の知識で「そういうことならそういう加速動作になるわなぁ」と納得してもらいやすいと思う。
●車名の数字とアルファベット●
159まではブランド名と固有の車名で、それ以下の数字とアルファベットは以下のような意味だ。
3.2JTS
3.2リットルV6ガソリンエンジン。JTSとはJet Thrust Stoichiometric/ジェット・スラスト・ストイキオメトリックで、ガソリン直噴技術。額面通りなら出力向上と低燃費が狙える。この件については筆者もまだ詳細に理解できていないので技術的に説明できないが、むしろシリンダー内部や吸気系に煤が溜まりやすいというデメリットばかりが喧伝されている印象がある。それらを一旦忘れて純粋に回してみた印象では、声高にエンジンの存在を主張するのではなく、実直にひたすらリニアにトルクを積み上げてくるタイプ。
Q4
アルファロメオ独自の4輪駆動技術。ごめんなさい、これも技術的に理解ができていないので4駆以上の説明ができない。なぜそれほどに……というほど複雑なシステムらしい。スバルに代表されるそれとはまた違った路面の掴み方をしている。
Q-Tronic
早い話がトルクコンバータ式の自動変速。当時も最近もフィアット系はAMTを積みたがり、アルファブランドなら「セレスピード」、フィアットブランドなら「デュアロジック」としてその新技術を売り込みまくった。が、3リッター越えの本車では6速トルコンAT=Q-Tronicが採用された(2.2Lモデルの自動変速機にはセレスピードが採用されている)。
Ti
Turismo Internazionale/ツーリズモ・インテルナチオナーレのアクロニム。元来はそのモデルの高性能バージョンに付与される。156や159世代ではどちらかというとエクステリアの差別化(大口径ホイールや空力パーツなどの純正搭載)を中心としたコスメティックモデルと考えて大きな間違いはない。
●159 3.2JTS加速動作の正体●
つまり実直でリニアな出力特性を持ったV6エンジンが、4輪駆動機構を経て路面を蹴る。変速はトルコンAT。これら機能の連携が当スタジオの159の加速動作を作っている。こんな加速動作、体験したことがないぞ……と気付いたのは、個体を受け取り、C4首都圏中央連絡自動車道・日の出ICに向かう市街地走行と、その後の高速道路進入でのことだった。筆者は1,800mmを超える車幅のクルマを所有するのは人生初めてで、この初対面時はむしろ車体全体の把握に神経が向いていた。で、赤信号のたびに「ふーっ」と一息つく。実はこれは納車から約3週間経った今でもあまり変わらない(笑)。青信号で再び走り出す……。このシーケンスで感じたのは「なんだかトラックみたいな加速だな」であった。もったりしている。車重が約1.8tだから当然でもあろう。4駆だから駆動力配分に瞬間的な遅れがあるのかも。などなど。しかし気が付いた。Aペダルにエンジンが反応する→エンジンが回転数を上げる→路面に駆動力が伝わる→変速機がよいしょという感じでギアを上げる、という一連の加速動作の進行がまるで絵を見ているようにわかる。わーっと回ってキュッと加速し、ほいほいほいとギアを上げていく、のような忙しさが一切ない。159 3.2JTS Q4 Q-Tronicの加速は解像度が高い。なるほどー!高級車ってこうなんだなぁ、と得心した。もちろんAペダルをもう少し煽ればちゃんとクルマは反応する。タコメーターを見ていると3,000rpmくらいまでするりと回って如何にもトルコンATだなぁという反応でもある。市街地のゴー・ストップを繰り返しながら「ま、高齢者送迎用でもあるしな。ピーキーじゃ逆に困っちゃうよ」などと考えていた。
ところがいざ高速道路に乗り、合流車線から本線へ乗る時に印象は一変した。3-40km/hから一気に100km/hへ加速しようとする時、159は鮮やかな加速を見せてくれる。前述の低速域と同様それはピーキーな所作ではない。滑らかなトルクが沸き上がり、クルマ全体をひたすら前へ押し出す。この怒濤のトルク攻撃とその出力のリニアリティにはうっとりするしかない。そこには絶対にQ4の路面把握性能やQ-Tronicの変速マナーが効いているはず。うわー……何これ……、すげえ……と呆れ喜んだ。JTSエンジンを冷静に観察していれば、どの回転域でもうっとりするような咆哮が聴けるわけではないし、ここからがパワーバンドだな!的なあからさまな二面性もない。ひたすらリニアにパワーが増えていく。だがしかし。筆者は都合13年に及ぶアルファロメオ MiToとアバルト プントエヴォとの蜜月を通じて、エンジン出力の二面性をイヤと言うほど味わった。もうターボラグの歯がゆさとはオサラバしたいというのが、NC/NDロードスター購入の理由のひとつなのだ。だから159のこの実直かつリニアな加速動作も大歓迎。それでいて同乗者に気を使う場面ではそれなりにソフトに走ることもできる。実は市街地で車列に紛れて走る時などはこの低速域の振るまいこそ運転が楽でもある。
●デメリットもある●
ひとりのクルマ好きとしては、「出そうと思えばいつでも出せるんだぜ」という心の余裕が何よりも嬉しい。実はこれだって159が持つ二面性と言えなくもないが、すべてが地続きの変化だから身構える必要がない。まるで剣道の達人から素振りを教わっているような心持ちだ。一方で唯一気になるのは燃費。すごい勢いでガスが減る。納車時に元オーナーのH社長から「圏央道から東北自動車道で仙台まででしょ?ガソリン間に合うかな……」と不穏な言葉をいただいていた。結果的に東京都あきる野市から仙台までの帰路は満タン表示の燃料計が1/2に減っただけだったので、「もう、社長ったら大げさなんだから!」と思ったのも束の間、159購入の最大目的、高齢者の通院補助などの市街地を大人しく走るシーケンスではじゃぶじゃぶガソリンを使う。しかもというか、だからタンクがでかい。燃料計読み1/3残でフルタンク給油したらさっそく1万円越えで驚いた。昨今のガソリン代金高騰の影響でもあるが、毎度これじゃあ財布が悲鳴を上げてしまう。
筆者にとって159は高嶺の花だったのではないか……という疑問が今もある(笑)。だが一度運転席に座ってしまうともうダメだ。濃厚動作を味わうことに夢中になってしまう。どうにかしてくれ。
「アルファロメオ 159を考えるシリーズ」
その1 運転環境
その2 加速(本稿)
旋回
制動
その他
燃費以外はサイコー(笑)!マンマシンインターフェイスが「とにかく濃い」、そんなふうに読み取れます。クルマの反応速度の匙加減が良いのでしょうか?ちょーなな殿とのクルマ談義でも「4Cは多分これ以上パワフルにしたり軽くしたりすると楽しいより怖いが先に来そう、アルファ上手いな。」なんて話をしたことがあります。お互いミトから始まったアルファライフ、まんまとやられてますかね(笑)?
やられてますねー(笑)。この後のエントリーで触れますが、この解像度の高い加速と旋回・制動はセットになっていて、どこにも急な反応や人工的な無表情さってのが皆無なんです。ハンドルの動きはMiToやロードスターに比べればおっとりですが、今回書いた加速動作と合わせると、右足だけじゃなくハンドルを回す手でも濃厚な機械の反応を味わうことができるのです。筋がびしっと通っているんですね。4Cの「これ以上」はぜんぜん想像がつかないのですが(笑)、どこかのレースのセーフティカーをやった時はタイヤ極太のツライチ以上みたいな感じでしたから、駆動力が逃げないようにするのは大変なんでしょうね。もちろん日本の公道で使える能力じゃないでしょうね(笑)。
JTSでここまで感銘を受けるのであれば、やはり147や156をぜひある程度の期間運転して欲しいです。パッと乗りでは難しいかもしれませんが、どちらもオーナーだった私が断言します。エンジンフィールと内装のエロさが別物です(汗) ルルルマジックですね(笑) 言葉では言い表せませんが、音が本当に気持ち良いルルルなんです(表現下手ですみません)。
156に関しては、私はGTAだったんですが、暴力的な加速という感覚ではなく、誰にも負けそうにない加速感があります(またもや変な例えですみません)。
アルファの本質は、やはりここがピークだと思っております。
しかしながら、セレ爆弾もありますし、もはや玉数も少ないので、今やおすすめはしませんが、万が一機会があったらぜひ。
それにしても、ガソリン代は、本当に今後大変ですよね。。。
16日あたりから、さらに値上げしそうな雰囲気ですし。
明日早速全車満タンにしてきます!
JTSにすらこんなに喜ぶなら……というよりは、そもそも3リットルオーバーのエンジンを体験したことがないことの方が重要なんだと思います(笑)。自然吸気のV6がこんなにトルクフルで粘っこくてバン!というよりもズドドドドドドという感じでパワーを出してくるとは、想像も出来ませんでしたもの。一応予備知識はあったんですよ。JTSは色気のない煤ばっかり溜まるエンジンだという。それでも感銘を受けましたもんね。やっぱり排気量の大きなエンジンは正義ですわ。痛感しました。
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147や156の内装がエロくてタマランのはよく解っておりますが、MTですらベアリング破損で20万円オーバーらしいんで、2025年の今、セレも6MTもどっちも地雷じゃないですか。確かに今回の159は前オーナーさんとの何気ない会話から成立した「ご縁もの」で、これが159じゃなく156だったらどうだったのかと問われれば、もしかしたら行っちゃったかもねではありますが、やはり今から新規参入はリスキー過ぎるんじゃないかと。ツインスパークやV6ブッソを今所有している人が、工業遺産として末長く動態保存していただきたいものです。
なるほどなるほど、そちらの方面の感動なんですね!
それは確かに感動ものだと思います。ある意味、以前acatsukiさんが言っていた、大排気量のアメ車に思いを寄せていた頃の思いが少しだけ夢叶った形になりましたね!
涙目147や156あたりのパーツは、大変なんだろうと思います。私の知り合いの156乗りの方もかなり苦労してらっしゃいます。降りるかもとも言ってました。ご存知の通り私も156GTAsw手に入れて一年経たないうちに、セレのアクチュエーターが壊れるという洗礼を受けましたから(汗)
とにかく3リッター初心者なんで(笑)。もしこれが5リッター+スーチャ付きのアメ車だった場合昇天してたかもしれませんが、家ではエンジンをかけることすら憚られるかもしれませんね(笑)。あるいは22時以降は帰りづらいとか。159に話を戻すと、3.2に4駆システムですからやっぱり重いんです。約1.8t。重いものをパワーでねじ伏せる感じが常にあります。特に40km/hくらいの速度域だとQ-Tronicが「ギア、上げて良いんですかい?それともキープしてた方が良いんですかい?」と、すごく迷ってる感じがありありと(笑)。その辺も燃費悪くしてる要因かなぁと思って60km/hくらいまで一気に引っ張ると、やっぱりそれもガスをじゃぶじゃぶ喰ってる感じなんですよねぇ。60km/hで多分4速で2,000rpmくらい。やっぱり一気に120km/hくらいまで引っぱり上げて、100km/h巡行ってのが燃費の観点からはベストみたいです。
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>>セレのアクチュエーターが壊れる
それ、修理完了後の納車のタイミングでオレ同席してましたよ(笑)!!金額を聞いて心臓が痛くなりましたもん(笑)。みいさんに買ってもらえた!っつってK店長(当時)がバルブ磨いて嬉しそうにしてたのが忘れられません(笑)。
冒頭の画像を拝見して159のサイドのプレスラインって、やっぱり美しいなと嘆息しておりました。
ただ、NDロードスターよりも倍以上の排気量とガッシリボディですから、燃費は目をつぶるしかありませんね。かく言う私も2リッターのツインスパークエンジンでさえ、満タン給油のガソリン代に閉口したものです。こういう人間はV6ブッソエンジン搭載の車に乗る資格が無いのかもしれません。
手に入れてから逆説的に思ったんですけど、この頃までのアルファはいろいろお金かけてるんだなぁと思いました。内装に色気がないと書いてますが、現行初期ものジュリアの内装はちょっと目を疑うくらい簡素でした。これでA4や3シリーズと勝負すんの?大変じゃない?って思いましたもん。ところが159だと外装プレスラインもそうだし内装の革の仕上げなんかも「ここは大事なポイントだから」みたいなこだわりを感じます。JTSにQ4と持てる技術トピックものは全部載せにしたんじゃないでしょうか。メカニズム方面からも見た目方面からも、乗り味方面からも隙は作らないぞ!というかアメリカで売る以上隙を作れないから!みたいな「本気」を感じるんです。実際売ってたらどうだったのかすごく興味があります。でも当時GM傘下だったサーブのディーラー網で売る予定だったらしく、その計画どおりなら惨敗だったかもなぁ。
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以前偶然にお会いしたタイミングが、私が147を拝した最後でした。208GTiの延命を決断されたとのことですが、そうじゃなければ何を後釜に据えたのかも興味があります(笑)。現行208にMTものがあればねぇ……。
そうなんですよ。159ってお金かかっています。
あのプレミアムプラットフォームなんてコストがかかり過ぎるため、サーブが採用断念したらしいです(メーカー自体も消滅しましたけど…)。それにしても、アルファロメオは商売下手過ぎますよね。トヨタを見習えとは1ミリも思っていませんが…。
それと、acatsuki様の過去のブログで159の試乗記を読ませていただきました。10年前に予言していましたね(^-^;。
最後に208GTiですけど車検は通しましたが、実は年末に1台注文しています(契約は3月ということで、ここがヒントです)。アバルトの新古車を購入する経済力はありませんので、今度は国産車です。気持ち的には現在のところ増車の扱いです。
あぁ、そんな古い記事まで読み返してくださったのですね。感激です。
試乗記・アルファロメオ 159・巧みな心理操作に踊れ! https://withcar.jugem.jp/?eid=1278
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すっかり忘れていて今回書いてることとちぐはぐになっていないか恐る恐る読み返してみたのですが、概ね同じことを書いてますね(笑)。本機はご縁あっての物件ですので2.2か3.2か、セレかQ-TronicかMTかは選びようもなかったのですが、3.2+Qトロの場合、確かに2.2+セレに乗って「多分3.2はこうなんじゃないか」と想像できるとおりの乗り味であります。単純に「高級車っぽさ」が2割増って感じですね。重い、だからパワーでなんとかするという図式が、実は高級車っぽい振るまいになっているような。これ、次回の旋回のエントリーで書くつもりなんですが、3.2 V6+Qトロ+Q4の場合、ドライビングシューズで運転しちゃダメですね。スーツに革靴で運転するのが正しいと思います。2.2+セレでも3.2のブレラでもそう思えなかった。ちゃんとそこまで計算してチューニングしてます、アルファは。流石。
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契約は3月……。すい……すぽ……??いや、違うか。NISMO案件??まさかのGR??ブログ、楽しみにしてまーす!
すい……すぽ……です。たぶん8,500人の1人になれるみたいです。
あのベース車両は本当に実直で素晴らしいコンパクトカーでした(代車で2週間くらい乗った)。今ならヤリスと迷いますが、候補をあてずっぽうに書きつつ、あおさんにはGRものはエモーションが足りないのではないかと思ったりもしていました。うんうん、納得。納車されたらぜひ見せていただきたいものです。
こんばんは。一台は重い物をパワーでねじ伏せる車しかも上品に、もう一台は軽くてひらひら舞う車。両方をいつでも選んで気ままに乗れる。これは車趣味のほぼ究極でしょう。
この続きが早く読みたいです。旋回や如何に。
今年の冬の今後は、暖かい冬で春が早く来るようですから嬉しいですね。
C43と同じカテゴリーに159は居て、そのC43を先に運転させていただく機会があったこそ、今回159の理解が早いと感じています。同じカテゴリーとは言えやっぱりイタリア人、ダークスーツなんだけどネクタイは超派手みたいな、ちょっと崩してる感じがそこはかとなくしますが(笑)。加速同様、旋回も超濃厚な手応えです。実はこれから書くんですが、なるべく早くエントリーしまっす!
素晴らしい組み合わせの2台ですね。
一台で全てをまかなうのもありですが、特徴/利用法に合わせて自由に選べる楽しさは代えがたいですね。
続編楽しみにしております 笑
でも最後にガソリン満タンにしてから1mmも動かしてないんですよ(笑)。燃料計の針の下がっていく速度も体験したことない速さ(笑)。