アルファロメオ 159を考える・その4
本稿のテーマはアルファロメオ 159の制動動作の詳細だ。実はこの「159を考えるシリーズ」を書こうと思ったきっかけがこの制動=ブレーキ動作。それくらい衝撃的だった。文字や聞いた話でしか知らなかった「踏力一定ブレーキ」がいとも簡単に体感できる。「あ!これが……!!」という驚きにはとうとうそれを体験したという歓びと、じゃあ今までのブレーキは何だったんだという混乱を意味する。筆者の自動車人生を根本から変えたアルファロメオ MiToの乗り始めから数えて16年、今さらながら筆者は踏力一定ブレーキを搭載したクルマを手中にした。
まず「踏力一定ブレーキ」を定義すると、読んで字の如く「一度Bペダルを踏んだら踏み込む足の力は一定のまま。そのまま減速し続け狙った位置にクルマを停めることができるブレーキ」。ググると色々出てくる。
踏力一定ブレーキの勧め。
G一定ブレーキ練習のお約束
「クルマのサスペンションと長いお付き合い」のNewton Breakカテゴリー
そんなの当たり前じゃんと思われるかもしれないが、では御自身のクルマで前記定義どおりに制動をコントロールできるか試してみていただきたい。少なくとも筆者がこれまで所有・体験してきた自動車のブレーキは、まず踏んで望む制動力を得た後、徐々に踏力を弱めていくフェイズが必ずあって目標のラインに止めるという動作だった。どうしてそうなるかというと、踏み始めから望む制動力を得られるまでの踏み代がとても少ないためだ。アルファロメオ MiTo、アバルト プントエヴォは特にそうだった。踏んだ瞬間に制動力が立ち上がる。これらのクルマはダウンサイジングターボの中でも加速に特化した車種だし、そうとなれば制動力もガツンと立ち上がらないと辻褄が合わず、運転のリズムが作りにくいという事情もある。
一方でその制動動作は、希望の停止位置に止めるために「踏力を抜いていくことで制動カーブをコントロールする」ことになる。少なくとも筆者が体験したクルマはこのタイプのブレーキばかりだった。
いやそれで何が悪いの?と言われると、別に何も悪くありませんと答えるしかない。実際NDロードスターまで含めて、ガツンと効いた後に踏力を徐々に抜いていくブレーキに慣れている筆者はいつも狙い通りの位置に止められる自信があるし、これまでの所有車両の制動力に不満を覚えたことはない。ところが159では5回に1回は失敗する。失敗するケースのほとんどが希望の位置よりも手前で止まってしまう。あー、オレ、ブレーキヘタクソだったのかなぁと悲しい気持ちになる。
159のBペダルと制動カーブの関係を注意深く観察していると、Bペダル踏み始めにガツンと来るのではなく、踏み始めてから望む制動力に達するまでの踏み代が大きいことにすぐに気が付く。反射的に制動力の立ち上がりが遅い!=ブレーキ効かねえ!と思ってしまうパターン。しかしそれは早計。159のブレーキは踏み始めから「ここだ!」という踏み込み量に達するまでが勝負なのだ。今のところ筆者の拙い感知能力では、高い速度域からの減速の方がビシッと合わせやすい。40km/hくらいまでの市街地ノロノロ運転の時に踏力見積りを失敗しがちだ。高齢者送迎用として迎え入れた159の場合市街地走行パターンが圧倒的に多く、ま、これは修行だと思って鍛練に励むしかない。
今思えば曉号ことNDロードスターのブレーキライン(パイプ)をオートエグゼのものに交換したのも、ガツン感が(MiToやプン太郎と比べて)やや希薄だったからだろう。もう少し「速く効いてほしい」と潜在的に思っていたようだ。NDの場合オーナーによってはこれは吉凶分かれるだろうなぁと思う。サーキットや峠をガンガン走りたい系のオーナーには効きが甘いと判断されかねない。一方でクルーザーとしてNDを愛好するオーナーには純正状態でなんら問題ないだろう。
話を戻す。改めて考えるに159のブレーキは踏み始めから望む制動力を得られる踏み込み量までの解像度が高い。それはこれまで検分してきた濃厚な加速動作や、決してクイックではない旋回動作も同様だった。どの動作も解像度が高く加速しながら、旋回しながら、制動をかけながらクルマとじっくり対話できる時間がある。2000年代のDセグメント車両は高級車入門編という立ち位置だろう。それが理由のすべてではないにしても、結果的に159は終始金持ちケンカせず的な挙動で運転することになる。カジュアルではなくフォーマル寄り。セッティング巧者として名高いアルファロメオ実験部隊の面目躍如ではないか。素晴らしい。
余談だが159と同じタイプのブレーキを筆者以前一度だけ体験したことがあった。Profumo姐さんのポルシェ 911(Type991.1)のカレラSだ。
【再試乗】ポルシェ 911カレラS (type991) ・私は馬鹿になりたい

991カレラSのブレーキを上記リンク先エントリーでは159ブレーキと同じように解釈し、「独特」と表現している。これは今思えば「なんか効きが甘いけど、天下の911のブレーキなんだからこれはこれで理由があるんだろうなぁ」という忖度を感じる文章だ(笑)。もっとも911界隈では991からブレーキタッチが変わったという評価で、しかも歓迎する声が多かったと試乗時にP姐さんから聞いた。ということは997まではガツンブレーキだったんかなぁ、911。911に乗るなら997か996が良いと思っている筆者。俄然991より前のブレーキタッチが気になる。いやまぁ、そんな夢物語を語る前に159のブレーキを乗りこなせという話ではある。この「159を考えるシリーズ」の3回分を費やして筆者が言いたかったことは、オレは高級車を手に入れたぞ!という卑しく、かつ頭の悪い叫びと、これまでの運転履歴では理解できない運転体験の素晴らしさを提供してくれるアルファロメオ万歳!ということである。筆者はアルファロメオ、アバルトと乗り継いでマツダに流れ着き、結果的にひとつのブランドを盲目的に崇拝するのはやめようと考えるに至った。みんな違ってみんな良いのだし、どんなブランドにもプロダクトごとに出来不出来はあるのだから。だがブランドごとに培われたクルマの処方箋はどれも尊いし魅力的だ。その意味でアルファロメオ 159は「アルファロメオが考える高級セダン」がたっぷり味わえる素晴らしいクルマだ。ほとんど偶然から159を所有することになった筆者だが、こいつはかなりの幸運だった。ありがてえ。

H社長ありがとうございます
次回は落ち穂拾いにして本シリーズ最終回。個体のあれこれを書いておこうと思う。
ここまでの記事を読んできて、159は内外装、動的資質が高級であり「上質」なクルマ、というところですかね。今、ヒュンダイやBYDの話題が自分のネットニュースに流れていますが、スペックでは対等以上でも、この辺の欧州メーカーの「仕上げ」をキャッチアップするのは一筋縄ではいかないと思います。日本メーカーも今もって競り合っている状態だと感じています。自分の車歴も一応ブレーキは贅沢な造りのクルマを乗り継いで来ましたが、もしかしてクルマ趣味を続けてこれたのもブレーキ操作の楽しさや難しさをクルマが教えてくれていたからかも、なんてカッコつけてみました(笑)。次回お会いしたときはこの辺もツッコミ合いましょう!
冒頭で要約していただいた内容でドンズバです。発売当時の車両本体価格が530万円(だったかな)。今なら800万円弱ってかんじでしょう。そういう価格帯=商売に見合うプロダクトになっていると思います。ただアルファロメオの文脈からは少々外れていたってことなのだと思います。仕上がりはすごく良いけど、アルフィスタが求めていたものではなかった、というのが売れなかった理由じゃないかなぁ。結局ジュリエッタは147の系譜だしジュリアは156の系譜だと個人的には考えています。ジュリアは159を継ぐものではないんです。
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90年代でしたか、ローバー系列3ブランドをBMWが買い取っていた時期があったじゃないですか。その時ランドローバーの技術を吸い上げて初代X5を作ったらしいんですね。でも数年じゃやっぱり乗り味まではコピーできず、初代X5は生煮えな出来だったという車評を読んだことがあります。やっぱりブランドの「味」って一朝一夕じゃ醸造できないし、簡単に吸収できるもんじゃないんですね。今度お会いした時にはこの辺の話もいっしょに!
月曜日、そちらに仕事だったので、ちらっと159見てきましたよ(^^
霜がかかっていましたがw、綺麗な個体ですね!
並んでいる車が、見事に変態度を増しましたねw
フルカバーを買おうと思っているんですけどカバーの前にオーディオ不具合の調査しなきゃだし、ロードスターのアレもやりたいしで自分でも優先順位が付けられません(笑)。変態度については素直に同意。つかさ、シトロエン C3、NDロードスター、アルファロメオ 159が並ぶ家って、ある意味異様ですよね(笑)。オレなら二度見しますわ。