【再考】高齢者用送迎車として、アルファロメオ 159は有益か

2025年5月初旬に義父が他界した。つい数日前のことだ。経緯や詳細はこのブログで扱うテーマと関係ないので省く。本稿では高齢者の移動ツールとしての自動車の最適解を今一度再考する。最初の考察は以下をお読みいただきたい。

【考察】高齢者用送迎車として、我々はどんなクルマを買うべきか

改めて、当スタジオのラインナップ

当スタジオのバトラー君ことアルファロメオ 159は実母・義父・義母の通院や諸々の生活の足を担うために導入された。だが結果的に義父を乗せた回数は片手で間に合うかどうか。遺体を病院から葬儀場に搬送する特装車両を追いかけるべく、広大な駐車場にぽつんと停まっている当スタジオのバトラー君ことアルファロメオ 159に向かいながら筆者がしみじみ思ったのは、「お義父さん、159に乗せる機会があまりなかったな」であった。

理由はいくつかある。晩年の義父は脚力が酷く衰えていて、そもそも移動する機会があまりなかった。また昭和10年生まれとしては珍しく、180cmを超える長駆の人だった。正統派セダンタイプボディのバトラー君への乗り込みは、身体を折り曲げる必要があり、脚力の衰えた状態では乗り降りそのものに苦労がある印象だった。ちなみに義母はバトラー君着任前に亡くなってしまったので、乗せる機会がそもそもなかった。だが晩年は体力の衰えが著しくほとんどよちよち歩きだったから、クルマへの乗り降りという行為そのものはやはり重労働だっただろう。

そのような当スタジオの事情から結論めいたものを導き出すとしたら、159という選択そのものが最適ではなかったと言えるかもしれない。それなら背高軽ワンボックス一択じゃないかとセイロン島から来た御仁は言うだろう。筆者だってそんなことはわかっている。高齢者送迎用と言いつつ筆者が運転にストレスを感じないことも同時追求したわがままの結果が159導入ではある。

一方で一介のクルマ好きとして、どんなクルマでも製品への興味はある。最近上梓したレポートのとおり、三菱 ekスポーツは一定条件下では「悪くない」という結論を出している。

【超短評】三菱 ekスポーツ・悪くない

ほとんどの国産コンパクトカー(軽自動車を含む)はそうだと思うが、時速60km/h以下で運転することが大前提で、その速度域内でも気持ち良く運転するには、その車種と対話できる能力が求められる。加速のさせ方、ハンドル操作の速度やタイミング、ブレーキの効き方のクセなど、読み解く情報が意外と多い。だが「安くてコンパクトだけど運転しにくいクルマです」とはメーカーも口が割けても言えない。だからこその電子制御デバイスでの見かけ上の能動・受動安全性能稼ぎではないか、と筆者は考えている。それらが価格に反映されるのも釈然としない。

今や欧州車だってそんな感じだけどな。

話が脱線した。機能面から単純に考えれば、アルファロメオ 159は高齢者用送迎車としては乗り降りがしにくいという一点において、やや難ありと断ぜざるを得ない。特に足腰が弱っている人の場合それは顕著になる。一応159の名誉のために書いておくが、では屋根の高いワンボックス、ミニバンタイプなら解決するのかというと、単純にそうも言い切れない。日本国内ではフルサイズクラスのミニバン(変な呼び方だな)の場合、フロア高が高過ぎてよじ登る感じになってしまう。座ってからの環境が豪華で快適であることよりも、乗り降りが楽なことが重要視されるのがこのジャンルと言える。となればやはり軽自動車のワンボックス、B-Cセグメントのミニバンに如くはない。またそれらの製品のリアドアのほとんどがスライド式になっていることも大きな加点要素だ。人気の町医者に限って駐車場の1台あたりの面積は狭く、健康な人だってドアの開け閉めに気を使う。握力・腕力の衰えた高齢者が普通のドアを繊細に開閉するのが難しいというケースは多いだろう。実母の場合だが見ていてこちらがハラハラするくらいドアに振り回されている。縁石にドア下部を擦ったり、隣のクルマへのドアパンチ加害者になり兼ねず、やむを得ず運転手の筆者が恭しくドアの開閉を行う始末。

ボディサイズもリアドア形状もこの上なく便利なのに、多くの軽自動車、国産B-Cセグメント車両のドライバビリティが優れないことは、我々のような運転好きには不幸でしかない。そうでなければこの考察も生まれない。こちとらクルマの運転そのものに悦び見出すというヘンタイなので、機能が優れている「だけ」では食指が動かない。身体能力の衰えた高齢者でも比較的乗り降りが楽で、しかもドライバビリティに優れている車種というと、反射的に思い浮かぶのはルノー カングー、最近になってPSAのリフターベルランゴあたりではないか。あとシャシー容量が望外に大きく、乗ると思った以上に良いらしいトヨタ シエンタ、有識者から「一体どうしちゃったんだ?」と驚きの声とともに称賛されているホンダ フリードという選択肢もあろう。フリードなどスロープに電動ウィンチ付きの介護仕様まで揃っている。この辺りがヘンタイも納得のドライバビリティと高齢者の安楽な乗降性のバランスが取れている車種ではないか。

同じクラスの似たような見た目でも、少し調べると購入を躊躇する車種もある。日産・三菱勢ではB4系ルークスでようやく自社開発化。だがそのことがドライバビリティを保証するものではないし……。同クラスのデイズ、サクラはスライドドア設定がないので除外。アルヴェル、エルグランド、デリカD:5はおろかノアヴォク、セレナなどは前述の通りセカンドシート以降のフロア高がしんどいだろう。フリード同様称賛の声が多い現行ステップワゴンは、ディーラーオプションで電動スライドステップが設定されているので、この件ではまぁお察しというヤツだ。

頭のおかしい筆者のように、ロードスターを所有しながらさらに159を配備するような例もそう多くはないだろう。特に30から40歳代の子育て世代なら、自家用車2台持ちなんて考えられないというケースの方が多いに違いない。ミニバンタイプの自動車の研究がこれほど進んでいて、しかも乗降性・居住性・操作性のバランスが取れた成果品が何車種も販売されているのは日本だけだと思う。高齢化は避けられない現実だ。もう少し「運転して楽しい」「同乗者も運転手もハッピーになれる」、そんなミニバン、ワンボックスタイプのクルマが増えて欲しい。高齢者の乗降と居心地が良いクルマは、結局全年齢の人が心地良いクルマではないか。

2件のコメント

  • 岳父様のご逝去に際して、まずはお悔み申し上げます。
    昭和10年のお生まれということで、大往生ではないでしょうか。
    乗降性に関しては身長や障害の有無等で条件が変わりますので、
    どの車がベストかは一概には言えません。

    それよりも人生の最末期において、アルファロメオ車に乗れた事
    の方が仕合わせではないでしょうか?(あくまでも個人の感想)。

    追伸:5月24日はこちらもアレのため、今年も参加出来ません。
    無念じゃ。

    • ありがとうございます。義父には身体が衰えて(つまり老衰)命の灯が消えて行く様をとくと勉強させてもらいました。本稿、高齢者という言葉にしているのは、当スタジオでの使用目的が身体能力の衰えた高齢者しか身近にいないという事情もあるなぁと、あおさんのコメントを読んで思いました。身体に障害を抱える人がたまたま家族にいない(強いて言えば自分が該当するんじゃねえかとは思いますが)ので、お年寄りしかターゲットに見えていなかったんですよねぇ。
      ____
      ちなみに義父にはNDロードスターにも乗ってもらったことがあるのですが、これはマジでダメでした(笑)。座っても窮屈そうだし、どうにかしないとと思ったものです。最後の方は国産車か輸入車かなんて区別もつかないくらいダメージ入ってましたから、導入が少々遅かったなぁ。24日のご事情、承知しました。年間スケジュールですから致し方ありませんね。

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