試乗記・トヨタ GRヤリス トヨタという会社がわからない

2024年5月25日の拙ブログ主催オフ会にて、参加いただいた方の愛車を何台か運転させていただく僥倖を得た。1台ずつ印象記を書いてみる。もちろんプロの自動車評論家のそれには遠く及ばないが、プロドライバー以外の読者の思考整理のネタにでも使っていただければ幸いだ。まずはヤマベ兄ぃのトヨタ GRヤリスから。

「どう?乗ってみないスか?」の一言で始まる試乗なので、データシート的なものはない。申し訳ない。兄ぃから訊いた数値とトヨタのウェブサイトを照らし合わせると、試乗した個体は6MT/4WDのRZなるグレードのようだ。さらにRZ内にもHigh Performanceという上級グレードがあるようだが、どちらなのかは聞きそびれた(と言うかそういうグレードがあるということも試乗時は知らなかった)。※1 また社外品も含めた細かなカスタマイズが施されているので、データシートがあったとしても参考程度にしかならないだろう(言い訳)。2023年のオフ会時はまだ納車されたばかりで慣らし運転中につき、助手席同乗試乗しかできなかった。その時の印象をまとめたのがこちら。

2023年6月3日
トヨタ GRヤリス同乗体験から考える

「ヴィッツからのメジャーモデルチェンジで気合いが入っている」「ボディは硬い」「特に内装に趣味性が薄く、その点が物足りない」などがサマリーとして挙げられる。だがこれらは助手席同乗での印象であって、実際に自分が運転するとなれば得られる情報量は何十倍にもなるから、せいぜい乗り込む前の予習程度の知見でしかない。だから慣らし運転から開放され、筆者自らがハンドルを握る今回の試乗の要点を「どこまで踏めるか、どこまで曲がれるか」と見定めた。で、このまま結論を書いてしまうが、激烈なクルマだった。筆者ごときでは踏むにも曲げるにも限界は遥か向こうにあってその背中すら見えなかった。1台所有でワインディングから買い物から父母の病院送迎までなんてことは間違っても考えてはいけないクルマである。なにしろオーナーヤマベ兄ぃによって相当数の強化パーツ類がすでに仕込まれているから当然と言えば当然なのだが、それらの威力をほぼ体感しないように細心の注意を払って運転したとしても、相当スパルタンな乗り心地なことは間違いない。

※1訂正:グレードはRC=競技用モデルでした(ヤマベ兄ぃより)

とにかくこのリアのオーバーフェンダーがかっこいい

■ワインディングスペシャル
ヤマベ兄ぃはガチで峠アタックをする人である。峠でも近所のワインディングでも良いのだが、とにかく「速く走ることが正義」。※2 そのためのパーツを後から追加されているのだが、まずエンジン始動時から驚かされるのが強化エンジンマウント。音もすごいがアイドリング時でも振動がものすごい。昨年感動した高いボディ剛性だけでなく、社外品のバケットシートとの相乗効果もあるだろう。ちょっと記憶に無いような周波数低めの、しかし鋭い振動が腰を中心に襲う。ビビりつつ走り出すと今度は機械式LSDによる猛烈なトルクステアに翻弄される。いやなにこれ。特に低速ではぜんぜん言うことを聞いてくれない。振動を覚悟しつつ力ずくでハンドルを回転させる。ところがゆるい左右コーナーが続く会場近くのK53を南下し始めるとそういう大変さを挙動のリニアリティが上回り始める。操作系統全般が「重い」のだが、ピークやディップなどなく、もっと決然と操作しないと言うことを聞いてくれないことがわかり始める。そこまで覚悟を決めて初めてGRヤリスヤマベ号は踏んでも曲げてもリニアに反応してくれる。確かフライホイールも軽量化しているはずで、※3 ギアチェンジも迅速に終える必要がある。つまり速く走って速く操作した時に一番気持ち良くなるようにセッティングされているのだ。

※2訂正:気持ちよく走れることを一番に求めてて、結果的に速く走ることになっている感じですね(笑)
※3訂正:フライホイールは純正のまま(以上、ヤマベ兄ぃより)

■少し冷静に観察してみる
K53を蔵王温泉方面に走って行くとトンネルがあって、今回南側出口で工事のための交互通行が実施されていた。1分前後必然的に停車するので、そこで少しクールダウンできる。「このクルマ、速いな!」とドライバーが実感する要因は絶対的速度の高低、100km/h出てるかどうかではなく、第一に求心加速度(躍度)であり、第二に自らの入力操作に対してクルマが迅速に反応するかどうかである。このふたつが揃うとバカッ速ということになるのだが、兄ぃのGRヤリスは筆者ごときが10分15分走らせたくらいで適正な操作速度を実現できるはずもなく、結果的に本来の旨味が味わえる速度域に放り込むことすらできない、宝の持ち腐れ状態になってしまっていた。強化エンジンマウントはアルファロメオ MiTo時代から憧れていたが、速さを感じたいならかなり有効なカスタマイズだ。ただし兄ぃによれば、シャシーやボディに過剰にストレスがかかるから喜んでばかりもいられないとのこと。これはディーラーのメカニックさんからも言われたことがある。設計要件以上の強い振動をクルマに与え続ければ、思わぬ箇所の金属疲労などを呼び込むはず。GRヤリスとてそのリスクと無縁ではいられない。

さらに助手席同乗
本当はK21に合流して山形市街地までダウンヒルを行いたかったのだが、観光バスにアタマを押えられた数台の車列が前を走っており、予定よりも時間も距離も走れないまま試乗を終えることになった。中途半端な試乗を気の毒に思ってくださったのか、あるいは筆者のぬる過ぎる運転に嘆息したのか、兄ぃが「助手席にも乗ってみませんか」と薦めてくださった。ということで試乗コースとは反対の、市道三本木線を山形市街地方面へ下り、途中でUターンしてくるというコースを助手席でふたたび体験させてもらうことができた。下りはまぁ「おぉ!こんな速度域でもタイヤが路面をがっちり喰ってすごい」とニヤリとする程度だったが、オフ会会場へ戻るべくワインディングを登り始めた兄ぃの運転が凄まじかった。1速でのスタートダッシュ、その後の2,3速へのシフトアップは常にアタマが強烈に揺すられる。いや、揺すられるなんてもんじゃない。シフトアップのたびにヘッドレストへ後頭部をガツンとぶつける羽目になった。当然のことながらその加速は獰猛なのだが、純正タイヤ幅が225mmのところ245mmへ格上げされており、まるで車体が路面に糊で貼り付いたようにぐいぐい曲がって行く。だからGが余すところなく身体にかかってくる。助手席の純正シートだってそこそこホールドが良いのだが、けっこう脇腹が鍛えられる。筆者試乗時の下りで「こりゃいいね!」と喜んだ機能にオートブリッピングがあるのだが、兄ぃはオフっているという。便利ではあるがワインディングを走る時は自分で操作リズムを作ることが肝要だからとのこと。この同乗試乗時、登りの爆発的加速を実現する兄ぃの驚速運転操作を体験すると、確かに機械に勝手にブリッピングされたんじゃ返ってテンポが落ちるだろうなと思わせるものがあった。

■GRヤリスヤマベ号を味わってみて
そもそもヤリスはこのGRやGRMNバージョン(はたまたヤリスクロスまで)を念頭に開発されたという。例えばルーフ後端へなだらかに降りて行くその角度は、リアスポイラーを付けた時に空力効果が最大化するように設計されているというのだ。サーキットやラリーパッケージとレンタカー屋さん配備の最下層グレードが同じ設計思想下で年次改良を受けるって凄くないか。そしてそれら改良効果は、ヤリスの高いボディ剛性が大前提になるのだという(もちろんGR/GRMNグレードの溶接スポット数や接着剤使用量は段違いに増加している)。今回のヤマベ号試乗は、手っ取り早くボディの高剛性を体感する良いケースでもあったと思う。強化エンジンマウントだのLSDだののあの鮮烈なじゃじゃ馬感も頷ける。そういう風聞や実際の運転体験を繋ぎ合わせると、GRヤリスは、少なくとも筆者未経験レベルの「基本素養がバカみたいに高いBセグ実用車」ということになる。日産 マーチは完全に日本市場を諦めたということだし、三菱 ミラージュも「どうしても三菱車じゃなきゃヤダ」という人以外に訴求力が無い。そもそもBセグは完全に軽自動車に取って代わられて久しい。だがそこにこのGRヤリスである。もはや一人勝ちではないか。それも周囲が沈んでしまったから結果的に浮き上がったのではなく、ひたすら牙を研いでいたら周囲には誰もいなかったというオチである。すごいことだ。

では手放しでトヨタすごい!トヨタ万歳なのかと自問するとそれも違う。試しにトヨタ自動車の公式サイトで車種一覧を眺めてみると、「トヨタ車とは何か?」という問いの輪郭がどんどんぼやけて行く。GRヤリスで成し遂げた仕事は素晴らしい。だが同時にユーザーアンケートの結果を反映しただけとしか思えない車種もある。GRヤリスの乗り味が高みに登るほど筆者にはトヨタというメーカーがわからなくなる。信用して良いのか?悪いのか?試乗後こんなことまで考えてしまった。ヤマベ兄ぃありがとうございました。今後もどうぞご安全に。

追加情報:車高調(バネレートF12k・R10k)もインストール済み

ヤマベ兄ぃご本人からコメントにて情報をいただいたので、訂正し追加した。また「■さらに助手席同乗」の項、テキストデータのペースト間違いによって前章と重複していた。重ね重ね申し訳ない。

6件のコメント

  • 自分は友達のRZ(ハイパフォーマンス)と山を走った感想です。(前回と重複あり) 
    ・取り敢えず速い!(当たり前ですね)
    ・ヤリスより強面だからバックミラー越しにコーナーから飛び出してくるとなかなか恐怖。
    ・ノーマルでスリット&2ピースローター(比べたら4Cより大径)、カーボンルーフ等やはりTOYOTAの本気は半端無い。車体もコンパクトとはいえ、四駆で1300キロそこそこの車重は素晴らしい!
    ・追いかけると動きの質がピュアスポーツ(ノーマルでも)。
    ・オーナー曰く「車とドライバーの距離は遠くなった(90年代車比)」
    個人的には存在そのものが嬉しいし、ラリーでの活躍も嬉しいです。ただ仰るようにマーケティングに執着し過ぎ、ドライバーを軽んじすぎる車を乱発する姿勢等は全く頂けません。今度ちょーなな殿と会ったらTOYOTA談義是非してください、パートナーのTOYOTA車に辟易してます(笑)。因みにこの前は山道をスーパセブンとGRヤリスの間を走るというなかなかハードなポジションでした(笑)。

    • >>「車とドライバーの距離は遠くなった(90年代車比)」
      これは……。うーん。オーナー個人の感覚の問題もあるでしょうし、例えばヤマベ号はオーナーによってけっこうディープなパーツ追加が為されているので、その分オーナーの「オレの1台」感覚は強いでしょうし……。それらパーソナライズ以前の、あくまでGRヤリス本体の素養の問題として距離が遠くなったとおっしゃるなら、うーん、オレにはそこまでは感じ取れなかったなぁ。
      __
      本文にずばりとは書きませんでしたが、トヨタ、やる気になればやれるわけじゃないですか。すごいですよ、GRヤリス。でも同時に「ま、これでいいだろ」的な「見切りの美学」みたいな製品もバンバン出すわけで。そこがイヤ。以前はアベンシスなんて欧州対策車(そして逆輸入)もあったじゃないですか。あれ足良かったんですよね。まぁゴルフのちょっと柔らかい版みたいな感じですが、そういうの出せるならもっと出してよ!と思うわけです。ただ冷静に見渡せば00年代、10年代通じて、アルファもプジョーもB、Cセグメントはゴルフみたいになろうとしてなんとなく中途半端な出来でしたけどねぇ。冷静に自分のところの味を守ろうとしていたのはルノーだけじゃないかなぁ。ざっくりざっくりな感想ですが。
      __
      今回の数台の試乗ではっきり自覚しましたが、「限界状況での運転技術向上!」とか「ちょっとでも人より速く!」とか、もうあまり思ってないんだなぁ、オレ。ノムラさんのアウディ TT-Sをいっしょに乗りながら得心しました。年齢的なものかもしれません。

  • レビューありがとうございます。
    自分としては、本文中の「速く走ることが正義」はちょっと違くて、気持ちよく走れることを一番に求めてて、
    結果的に速く走ることになっている感じですね(笑)

    あと、自分のGRヤリスの情報書いておきます。
    グレードは、ナビなどが無い競技モデルのRCです。
    改造は、強化エンジンマウント・車高調(バネレートF12k・R10k)・機械式LSDが主な内容です。
    本文中にあったフライホイールは、純正です。

    • いろいろと思い込みで間違ったことを書いてすみません。特に気持ち良く走る→結果的に速く走る……は、致命的な間違いです。訂正します。そうなんだよなぁ、ヤマベ兄ぃのクルマのことを書こうとする時はちゃんとご本人からデータをもらってからにしようといつも思うのですが、今回この後に3台控えているので焦ってしまいました。はい、全部自分の都合です。すみません。
      __
      自分自身は「気持ち良く走る」ことを優先しています。そこは兄ぃといっしょ。で、その目標にどういう手段で到達するかをあれこれ考えて、そもそもの素養が高いクルマを純正状態で乗るというルートを、今は走っているところですね。まぁNDにもメンバー追加やブレーキホース交換などやっていますが。兄ぃと私は同じ山を違う登山ルートで登ってるという感じですね。

  • 自分もちょっとだけ試乗(しかもかなりのんびり)させていただきましたが、この速度行きで走ったら気持ちいいだろうなってところで車が素直な感じになるところがとても好印象でしたw(最初に乗り込んだ時の振動との落差でしょうかw)
    下りのブレーキングしながらのシフトダウンの時の安定感はさすがラリーベースなんだなという感じで、安心してサイドブレーキ引けるな…と思いました。

    • あ、お乗りになったんですね。そうですそうです。けっこう高いところにベストバランスな領域があって、「あ、今スイートスポットに入ったわ!」とはっきりわかるくらいの豹変ぶりでしたね。一方で自分が所有すると仮定すると、8-9割はそのスイートスポット以外の領域で乗らざるを得ず、こいつで買い忘れた食材をスーパーに買い足しに行くって場面が想像できませんでした(笑)。こうなるとクルマの良し悪しじゃなくて人生観の問題です(笑)。

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