トヨタ GRヤリス同乗体験から考える

既報のとおり2023年5月27日に無事終了した「クルマで行きますOFF会#22」の会場で、ヤマベ兄ぃのトヨタ GRヤリスの同乗試乗が叶った。筆者ごときが助手席に短時間乗ったからといって何がわかるわけではないのだが、少し考えることもあったので書いてみようと思う。

#22-13

■そもそもヤリスってさ■
トヨタのヤリスはヴィッツの後継。そのヴィッツは3代目(2回目のマイナーチェンジ版)に一瞬運転したことがある。感心したのはペダルアセンブリの取り付け剛性が高いことくらいで、CVTを介した加速はぬぼー。ブレーキはプア。EPSは中立付近が曖昧でリニアリティも無けりゃ情報も少ないという、60km/h以下で走ることしか考えられていない堅実なドメスティック商品。言い方を変えれば「誰が喜ぶのかわからない商品」であり、筆者が好意や興味を持てる物体ではなかった。加えてメディアの記事中でもヴィッツの良い話は聞かなかった。売れると分かったとたんに見えないところのコストを削るのはトヨタの常道だが、マイナーチェンジを重ねるたびにボディ剛性が落ちていくとか、売れ筋レンジ以外はテレスコピック機能を省略したりとか。いわゆるBセグメントと呼ばれる車格の商品は自動車メーカーの実力を測る恰好の基準であると思っているが、なるほどヴィッツの出来は色々な意味でトヨタを象徴していると嘆息したものだ。

だがモデルチェンジ時だけは、つまりニューモデルの初代だけは力が入ることもトヨタは定評があるようで、スターレットから代替わりしたヴィッツ初代は(その後のマイナーチェンジ版から逆説的に)評価が高いと聞いた。そしてヴィッツの名前を廃して登場したヤリスも、明確にボディ剛性が上がったという記事を読んだ。ボディが一定以上硬いことでデメリットが生まれることは考えにくい。旋回には特に効くはず。だとしたらプジョー 208、シトロエン C3、ルノー トゥインゴ(=スマート フォーツー)などと同じ土俵で評価しても良いのではないか。いや、メーカーコンプリート車というジャンルなのだから、アバルト 595やルノー ルーテシアR.S.と比較して良いものになるのでは?今回は同乗試乗なのでそこまで検分できないことは承知の上で、「ホントにボディは硬いのか」「旋回動作はソリッドなのか」が興味の対象だった。

■硬い■
助手席に乗せてもらって走り出してボディが硬いのはすぐわかった。それもイヤな硬さではない。恐らく確信犯的に走りに効くポイントを硬めたのだろう。それがスポット溶接なのか接着剤マシマシなのかはわからないが、とにかくすっきり硬い。もう少しつっこんで書くなら「下が硬くて上はまだちょっと余裕がある感じ」。硬いバスタブの中に座って屋根が被せられてるような感じ。MiToとかプントエヴォとか、GRヤリスに比べりゃずいぶん柔らかいわ。自分の基準値ND5RCロードスターなど比較対象にもならぬ。一方でオーナーの兄ぃは足の柔らかさが気になるという。ダンパー……いやスプリングですかねぇ。すでに手は打ってあるそうですが。うへへ。助手席ではわかりませんでした。

■加速とか制動とか■
この日、この個体はまだ慣らし運転中。エンジン回転上限は3,000rpm。その状態で加速・旋回・制動の評価ができるわけがない。

■内装■
こう言っちゃ兄ぃには悪いけど、内装は黒一色で地味。ただし造形はそこそこ複雑な凹凸があって組み立て精度も高い。実は運転に集中したい時は視界に色味は少なければ少ないほど良い。窓外の情報以外に動くものも必要ない。その意味では走りが売りのGRヤリスのキャラとぴたりと一致している。シートはセミバケット風で表皮はファブリック。アンコの硬さもちょうど良く背中のホールドも少なくとも今回の試乗では気にならない。運転席からの見え方はわからないが、助手席同乗によるストレスは視覚上も身体拘束機能上も皆無。助手席の窓上部にはグリップもあって、兄ぃのちょっとハードな運転でも上体をホールドするのは楽だった。後部座席は乗っていない。

■クルマを降りて■
ボディは気持ち良く硬かった。旋回挙動だって兄ぃが言うほど何か瑕疵があるようには思えなかった。つまり試乗にあたって知りたかったことは概ね体感できた。その意味では満足。当日会場でも口にしたのだが「デートで彼女を乗せても不満は出ないだろう」という総論。こいつなら走ってくれるだろうというオーナーの期待と、快適な移動をまず優先する一般的な女性が期待するものが1台の中でバランスしている。念のため書いておくがヤマベ兄ぃがデート用にGRヤリスを買ったとかそういうわけではない。ヤマベ兄ぃのプライベートを筆者はほとんど知らない。あくまで一般的にという意味だ。

基本的な素養は3代目ヴィッツと比較すれば文句なしに高いことはわかった。では208やC3、595やR.S.モデルと肩を並べているかと考えると、走行性能はともかく、趣味性という意味ではまだまだ薄口である。「羊の皮をかぶった狼」とはこういうものか。意志をもって操縦すれば、GRヤリスはそれをしっかり受け止めてくれるだろうと助手席に座っているだけで容易に想像できる。偉大な先達である日産 マーチ12SRを意識したかどうかは知らないが、そういうものになっている。チューニングの勘所はしっかり押えられている。

そもそも開発担当者たちはGRヤリスに趣味性を持たせることなど頓着していなかったのだろう。筆者のようなヘンタイは良いクルマ=走って興奮できるクルマ、所有欲をかき立てるクルマと考えがちだ。前述のアバルトやルノースポールの諸モデルはそこをうまく満たしている。そんな価値観に照らせばGRヤリスは専ら所有欲の点では物足りない。ここ数年のトヨタ製品を見ていると、恐らく5年から10年後にはキャラクターの作り方がさらにうまくなっていると感じる。GRヤリスのような趣味性をも求められるモデルにはきちんとそれに見合うクルマ造り、所有欲を満たすような外観、内装、動的性能を与えることができるだろうという予感があるし、現行カローラあたりからそれらの萌芽を感じる。だが2023年に乗るGRヤリスは真面目一辺倒の側面がまだ強い。「あ、このモデルを選ぶなんて、このオーナー、明らかにネジが1-2本抜けてるな」と思わせるような偏執性が薄い。極端に言えば狂気が薄い。走りにストイックなヤマベ兄ぃならそこは無視できるだろうが、筆者はこの点が物足りない。

先日筆者自宅の近所に住むそこそこ高齢の知り合いの女性から「こーんな派手なクルマに乗ってぇ!」と驚かれた。筆者のND5RCロードスターのことだ。言わんとすることは「派手=世間体が悪い」ということだろうが、この一言でロードスターが内包する「走りへの偏執性や狂気」を彼女が敏感に感じ取っていることがよくわかる。GRヤリスもロードスターも「走りに特化したモデル」という意味では同じ穴の狢である。だが狢同士はその狂気の血中濃度を敏感に感じとる。なんとかのひとつ覚えで狂気を取るか、理知的に考えて実利を取るか。GRヤリスは開発の焦点がはっきりしているから、買う理由/買わない理由をはっきり述べることができ、しかも短時間の助手席同乗だけでそこまで感じることができる。ヤマベ兄ぃ、ありがとうございました。

8件のコメント

  • お乗りになりましたか!TOYOTAは自分たちのスポーツカーを造る、という売り文句でリリースした、と記憶してますが実際はWRCウェポンですよね。個人的にはホモロゲモデルはあえてのベース車に寄せる感じが大好きです。先日親友のGRヤリス(RZハイパフォーマンス)と某セブンで走ってみました(お前の友達はそんなんばっかかよ、とかはまあちょっと無しで(笑))。まぁまぁ本気のセブンにくっついていくヤリスの後ろを走りました。単純な速さや挙動はただのピュアスポーツ&戦闘マシンですね(笑)。佇まいも峠に映えます。取り敢えずコンパクトカーベースとはいえ、ターボ+四駆+高剛性ボディで1300㌔切ろうかという車重が効いてます。某セブン乗りは最初から2ピースのブレーキディスクに関心していましたが、個人的には四駆とは思えないハンドリングが一番ビックリでした。TOYOTAに色々言いたいことはありますがやはり「TOYOTAの「本気」は凄い。」です。

    • 言うても助手席にちょこんと座ってただけですんで、要素ごとの凄みはわからないままなんですけど。映えるかどうかは外観を遠くから眺める時間がなかったのでアレですが、やはりあのリアのトレッド拡張はすンごいです。
        
      >>TOYOTAに色々言いたいことはありますがやはり「TOYOTAの「本気」は凄い。」です。

      もうね、一言一句激しく同感。造り分け技術がものすごいレベルになったせいで、各モデルに統一感がないのが残念すぎる。プリウスに乗ってもGRヤリスの足周りの片鱗が感じられるとか、そういう「トヨタというブランド全体としての統一感」があれば、「そんなんばっか」のご友人たちを含め私だって評価のスタート地点が変わるのになぁ。

  • レビューありがとうございます。来年までにはいろいろと改造するので、その時は是非とも試乗してください。(笑)

    • すごく短いこのコメントに改造プランへの自信が垣間見れます……。乗せていただき本当にありがとうございました。どうかご安全に。

  • こんにちは。

    幸いなことに自宅近くにGRガレージがあったので私も以前GRヤリスの試乗をさせてもらいました。
    お店が空港に近い場所にあるので試乗のコースも自主規制ながらけっこう自由にさせてもらった感想は皆さんと同じようにすごいの一言でした。もうほんとヤリスとの共用部品が多いからヤリスを名乗ってますがまったくの別物ですね。個人的にはヤリスではなく他の車名のほうが売れたのではないかと思ってますが聞いたところによるともともと海外では前世代のヤリス(ヴィッツ)から競技車両に使っていて馴染みがあるからそのままヤリスを継いでるとそんなことを言っておられました。

    ヤリスのことではないですが普段作ってないのにヤマハのエンジン積んでるってだけですごい憧れます(笑)

    • まぁあそこまでやってくれるのは素直に嬉しいですけど、基準車というか、ラインナップ全体的にもうちょっとかさ上げしてくれとは思います。社内開発主査の戦国時代みたいになってるんですかねぇ。もうちょっとトヨタというブランド全体の走りの質感にぴしっと一本筋が通ると良いと思うし、やれるのになぜやらないのか?と不思議です。
        
      GRヤリスの話に戻しますが、あれくらいやってくれればルノースポールやアバルトと同じ土俵で評価して良いと思うし、買い手としては選択肢が増えて良いですよね。今は納車に時間がかかるのがかわいそうですが。

  • TOYOTAの作り分け技術は素晴らしいものがありますね。
    部品調達や生産設備を考えてそれなりに台数を必要とするはずなんですが 汗。
    当日GRヤリスの仕組みや技術の一端をご教授いただきましたが、
    量産し数を出すことが困難ではと思う技術が使われていることに感嘆しました。

    一個人の思いですが、メーカとして走りの感覚を含めたブランド内統一をあえてしていないのでは。
    多様な感覚を持つ人々それぞれにあった車をメーカ内(プロジェクト内)で作り分けていると。
    単一メーカであらゆるニーズを満たそうとした結果が、モデル毎の明確な差異になっている気がします。
    これはこれで素晴らしいことだとは思いますが、このBlog界隈では厳しい意見になりますよね。

    • まずトヨタの企業規模でこれほど平均値の高い製品ばかりリリースできること自体が異常なんじゃないとは思っています。VWだってこんなにモデル数多くない。その中でも精鋭がメーカーの威信を懸けてリリースしたモデルがGRヤリスですから、デキがイイのは予想範囲内というか、ま、そりゃそうだろ的な。同じく通を唸らせるクルマとしてSTiのコンプリートモデルがありますが、あれらともまた違う印象ですねぇ。あっちは「あのスバルが……(感嘆!)」ですが、こっちの場合は「ま、トヨタがちょっと本気出せばああなるだろ……(諦観)」という印象ではあります。
        
      今回のMotiさんのコメントは色々示唆に富んでいるので短く返信することが難しいのですが、おっしゃる「ブランド内統一をあえてしない」方針については、私はポジティブには捉えられないです。第二次世界大戦後の復興国策に便乗せず(あるいは機織り屋さんとしてあまり相手にしてもらえなかった?)、独自に研究開発を進めざるを得なかった裏事情。世界の自動車メーカーどころか国内ライバルに対しても遅れをとっていて、なんでもイイからまともに走る自動車を作るためには買ってきた舶来品をコピーするしかなかった(それはトヨタに限った話じゃないみたいですが)。そこに長谷川達夫などの戦中のトップガン飛行機設計者を擁する幸運があり、日産とカローラ VS.サニー対決やらなにやらしつつ世界トップ企業になったわけです。その過程で「これからの技術トレンドをトヨタが作る!」とか「未来の自動車像をトヨタが発信!」みたいなことにはならず、ひたすら顧客の声だけを聞いて製品を作るようになってしまった。だってパブリカの時からそうですもの。現場のムードは熱いものがあったようですが。つまり自動車屋さんのトヨタには根底に「他社を圧倒する、あるいは世界に発信するトヨタならではの自動車像」ってのがないんですな。時の社長が「モノマネで何が悪い」と開き直る会社になってしまった。
        
      これは企業として大きくなるには、また健康体でいるためには仕方ないことだとも思います。ところがウチのブログ界隈では「不器用だが独自技術にこだわった個性的な製品をリリースするメーカー」に憧憬を抱く方が多いと思われ、もちろん私もそのひとりでして、ヤマハよりもコルグのシンセを選んでしまうとか、ユニバーサルオーディオじゃなくメトリックハロのオーディオインターフェイスを選んでしまうとか、世間とはちょっとズレた価値観を持っていることを良しとしてしまう。「モデルごとの最適化」は最終的には人を幸せにしないとは思うのですが、クルマ選び?めんどくせーという人にはトヨタのような会社はありがたいのでしょう。まぁGRヤリスの良し悪しとは根本的に関係ない話ですが、どうしてもトヨタの車を見る時、こういう思念が頭に浮かんでくるのです。

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