便利過ぎて不便

Apple Music

当スタジオでは音楽配信サービス・Apple Musicを導入している。今まで自宅のHDD上に置いていたライブラリーはクラウドに置かれ、端末を問わずにアクセスできるようになる。バックアップ頻度も大幅に減らせるし良いことだらけじゃん。毎月980円が高いか安いかは個人の主観の問題だ。迷いに迷っていざ導入してみたら、むしろお楽しみはAppleが作成した大量の公開プレイリストだった。1977年と1978年の歌謡曲ヒット曲集をくり返し聴いてしまっている。いやぁ、山口百恵だの松田聖子は歌がうまい。歌手本人の技巧の高低というよりも(それもあるが)、作詞家・作曲家・プロデューサー・広報宣伝などなどなど、ビッグプロジェクトとして「何が何でもヒットさせてやる!」というチームとしての熱量の高さがビンビンに伝わってくる。歌手はその氷山の一角でしかない。プレイリストに並ぶ雑多な歌謡曲(とは言えどれもシングルA面曲だ)を一気に聴いていると、いやでもそのことを感じてしまう。ナツメロだけではない。逆に滅多に聴かない音楽、日本で漫然と受動的リスニングだけでは聴く機会の少ない音楽はなんだろう……と考えて、タジキスタンのトップ100を聴いてみた。プロダクションとしてはその辺の日本や韓国の音楽よりもアメリカっぽかった。何を言っているのか1mmもわからないけど(笑)、けっこうくり返し聴いてしまう。タジキスタンの歌謡曲は、メロディとハーモニーの湿度が日本人に合うような気がする。

で、当然こういうリスニングジョイをカーオーディオにも持ち込みたくなる。これまでプン太郎のデジタル音源再生機はiPod Touch 3rd.gen.だったが、iOSを5.1までしか上げることができず、直接Apple Musicにアクセスができない。じゃあSIM抜きのまま塩漬けにしていたiPhone 6(iOS15)に入替えてWi-Fi経由でライブラリーを同期すれば解決だ!と思ったものの、思わぬ落とし穴があった。この原稿はカーオーディオ用音源の選択肢としてApple Musicを活用する場合のあれこれを書こうと書き始めたが、要点は単に筆者がある1点に拘泥しているだけということに気が付いた。そのことについて書く前に、まずApple Musicなどの音楽ストリーミング配信サービスを、車内音源として活用する際に肝要なことをさっさと書いてしまおう。それはセルラー対応の端末をヘッドユニットに接続することである。当たり前のことだ。

iPod Touch 3rd.gen.
iPodはグローブボックス内に設置

当代、多くのドライバーがクルマに乗り込むとまずはスマホを取り出して、ダッシュにぶらんと垂れ下がっているUSBケーブルと繋ぐ。音楽プレイヤーでありナビ代わり。だが一方でその使用方法は接続するデバイスのバッテリーを劣化させる可能性を高める。スマートフォンやタブレットなどは、基本的に充電し続けるとバッテリへの過負荷となり、結果的にバッテリの寿命をどんどん縮めてしまう。Apple MusicとApple Carplayを嬉々として使い続けると、まんまと1年とか2年置きにスマホを買い替える羽目になるのだ。筆者がどうしても受け入れらずに拘ってしまうのは、ここだ。わざわざ愛機の寿命を縮めるなんて

一方で別にそれでもいいという方もいるだろうし、「バッテリー充電の最適化」をONにしてるもんねーという方もいるだろう。お金があればどんどん買い替えれば良いし、毎日同じタイミングで車内でUSBコネクタに接続する生活ならそれでも良いだろう。「バッテリー充電の最適化」機能は、iOSの学習機能に拠っているから、充電する時間がまちまちだと思ったように機能してくれない。最適化をONにしていても過充電になってしまうことはあり得る。

面倒くさいことを言わずにBluetooth接続で良いじゃんという方はそれでも良い。でも音が悪いのよ、BT接続。特にプン太郎に搭載しているヘッドユニットcarrozzeria DFH-970(ディスコン)はBTのバージョンは3.0。同じ音源をUSB有線と聴き比べると、がく然とするレベルで音質が劣る。「んなこと言ってもエアクリ換えて吸気音が大きくなって喜んでんでしょ?タイヤノイズだって盛大だって書いてたじゃん。そんなノイズまみれの車内環境で些細な音質差なんて無視してもいいじゃん」、とYouは言うかもしれない。それもひとつの生き方だとは思う。が、エンジンルームやタイヤからのノイズをマスキングするレベルの音量で音楽を鳴らす時、音質の善し悪し(情報量の多少と言い換えても良い)は、確実に影響がある。スカスカの音質でいくらボリュームを上げても、聴覚上の音量は思ったほど感じないものなのだ。

carrozzeria DEH-970

ここに至り筆者は、カーオーディオ用のデジタル音源再生機をiPod Touch 3rd.gen.とiPhone miniの二刀流にすることにした。メインのiPodはiOS5.1でこれ以上アップデートできず、Apple Music非対応な分、本当にいつも聴きたい曲だけを厳選した少数のプレイリストで搭載しておけるメリットがある(そのかわり曲データを入替える時には家に持ち帰り、母艦に有線接続する必要がある)。幸いDEH-970はUSB機器を2台まで有線接続できる。どうしてもストリーミング音源を楽しみたければ、iPhoneでもiPad Airでも、もう1台のUSB機器として都度接続してやれば良い。

蛇足だが、Apple MusicとiTunes Storeの違いについても書いておく。手持ちのApple端末のOSがどれも最新の場合は何も気にならないが、筆者のようにiOS8.4未満の端末を編入しようとすると、iTunes Storeには大いに意味がある。Apple Musicはあくまでストリーミング音源なので、非対応端末とはデータを同期できない。だがiTunse Storeで「購入」した音源はこれまでどおり同期でき、晴れて車内用音源として持ち込むことができる。Apple Musicを契約すると、Music.appのライブラリーが対応機種全てで同期される。そこが便利でもあるのだが、ひとりツーリングの最中に特定の1曲を聴くためには、ヘッドユニット側では膨大なスクロールと選択ボタンのプッシュを強要されることになり、煩わしいことこの上ない。自宅のライブラリーを車中で楽しむためには、酷い音質に耐えるか、バッテリーの寿命を削るしかないのが筆者の現状なのだ。これは便利なのか不便なのか。Appleとのつきあいはすでに30年以上になるが、本件は心底面倒くさいと思った。

8件のコメント

  • こんにちは。私は運転中はほとんど音楽をかけないです。まあ、町中を移動する時くらいでしょうか。それでも右左折や駐車など気を使うときは消してしまいます。まず車の出す音が好きだし、音楽は邪魔(音楽にに集中してしまうことも多い)と感じることが多い。二つのことが同時に出来ないとも言えます。そもそも電子機器が苦手というのもあります。年を取ってからこの傾向が顕著になりました。若い方はいいですね~。昔は好きな歌手の歌を聞きながら運転することも多かったのに。

  • 大先輩から見れば若輩者には違いありませんが、あっしも今年で54になりますんで、決して若くはありません。車中で音楽を聴く・聴かないは、私も波がありまして、ずぅっと聴いていると「は!惰性で聴いてるな。いかんいかん」としばらく聴かないフェイズが来るんです。ま、でも聴くなら良い音で聴きたいですから、自分が納得できる音にはしておきたいです。

  • どうせなら車の中でも良い音で聴きたい、同意です☺️ 特に、リラックスして運転したいときは、AOR流してますね。
    私は、BT & iTunes Match & Amazon Music Unlimitedの組み合わせで、まあ、ほぼ満足してます。
    BTのバージョンが3だと、ちょっとキツイですね。apt-X対応のBTは、びっくりするほど音が良いですよ。
    我々音楽エンジニアは、車の中の検証が必須ですから、ある程度以上はクオリティ欲しいですよねw
    今まで乗った中で、一番音が良かったのはジュリアですね。ハーマンカードン。あれは凄かったなあ。
    i8もハーマンカードンですが、ジュリアよりは低音が抑えめですが、まずまずです。

  • apt-X(とapt-X HD)って初めて知りました。ざっくり解説記事を読んだだけですが、Xで48kHz/16bitですか。もはやCD以上。USB接続に拘る必要もないですもんね。そもそも聴いてる音楽がローな音楽なんで(笑)。一番音が良くて達郎とかGRPレーベルもの……かなぁ。最近のプラグイン音源で音像べったりな音楽も聴きます。なるほど、こういうミックスだと車内でもガンガン聴けるんだなって勉強になりますね(笑)。
     
    大ざっぱに言って、ロックは別にカセットで聴いてもいいんですよ。むしろそっちの方がいいかも。でもアコギが活躍するとか、声を張らないヴォーカルとかは、やっぱり音質が気になります。

  • 単なる好奇心ですが、カロッツェリアのウェブサイトにてDEH-970の仕様・取説を確認いたしました。Bluetoothバージョンは確認できましたが、オーディオ送受信コーデックに関する記載は見つけられず…
    標準(必須)コーデックのSBCのみと思われます。ご指摘の通り音的には褒められたものと言い難いですが。
    規格制定当時の技術的限界という側面ももちろんあります。Bluetoothバージョンが進むにつれて高性能な
    オプションコーデックが登場し、先のコメントにもありますapt-XシリーズやLDAC、AACといったものが使用可能となっています。(当然ながら受け側・送り側とも当該コーデック対応が必須ですが)
    DEH-970ではUSBメモリ・SDカードも使用可能のようですので(※1)、これならバッテリー問題も回避できるかなとも思いましたが、iTunes前提だとメモリ類は使い勝手が悪そう、もしくはまともに使えないかもしれないので悩ましいですね。
    ※1
    自分の場合、小型USBメモリに音楽データを入れてカーオーディオとして使用。純正オーディオ前面にUSBスロット有り。対応フォーマットはMP3とWMA。音楽管理ソフト(MusicBee)にて自宅PC内ライブラリと同期。MP3 320kbpsにて転送。
     
    ちょっと話は変わりますが、クルマ用のプレイリスト作成も意外と楽しいものです。
    1アルバムにつき気に入った数曲(0曲の時もあります)をピックアップして自分独自のおおざっぱなジャンル分けしたプレイリストを使っています。
    ある程度曲数を絞れば煩わしいヘッドユニット操作を軽減できるかもしれませんが、あれもこれも聴きたいとなってくるとプレイリスト作成自体が煩わしくなりますw
    ※2
    ロックでも音質差が出やすいものもあり、特にベースの締まりとかシンバルの〝飛び散り〟(何と表現するのが適当かよくわからず)なんかは、良い音で鳴ってくれるとテンションが上がりますw

    • そもそもDEH-970は現役期間が長かったように思いますので、勇んで搭載した技術もあっという間に古色蒼然となったのだろうとは想像しておりました。Appleユーザーの私はAACはかなり日常に侵食してきていますが、基本的には.wav/.aifをデフォルトにはしております。汎用性と言う意味では最強ですしね。
       
      そういえばUSBフラッシュ/SDカードにトライしてみようと思ったことあったな。なんで常用しなかったかというと、確かMP3にしか対応していなかったような。上記理由でライブラリーの中にそもそもMP3データがほとんどないので、わざわざそのためにMP3へ変換するのは面倒だ……という顛末だったように思います。やっぱり圧縮音源って、繊細な音質調整を施したい時や爆音で鳴らす時には腰砕けなんです。良いところで「ごめん、もう無理」ってなる。そっちの方がストレスたまるので、避けてるんです。

      iTunes時代はファイル管理はシンプルだったんですが、Apple Musicを使うようになるととたんにDLしたファイルの在り処がよくわからなくなり……。これはもうちょっと調べてみようと思っています。ファイルベースで考えるとApple Musicは使いにくいというか、煙に巻かれている感があります。もともとAppleの製品はどれもそうで、わかっている人がディープな操作をしようとすると意外とあれもこれもできませんってことがある。Appleが想定する/提供する環境下であれこれやるには結果出すのは早いし、見栄えも良いんですが。DAWとフォトエディット系くらいじゃないですか?バランスが良いのは。映像は機能の取捨選択ができないとAppleは使いづらいかもしれません(映像はほとんどやらないので受け売りですが)。
       
      プレイリストづくり、私も大好きですよ(笑)!2015summerとか2017winterなんて名前で、その時に気に入っていた曲を2-30曲まとめたリストを折々に作り続けています。後日「あー、あの頃自分の中でこいつら流行ったなぁ」と回顧展ができます(笑)。そういうのだけクルマに持ち込みたいんです。Music.appの左カラムにずらっと並ぶ歴代のプレイリストを車中で全部表示されても、選ぶ作業のためにクルマを停めてジョグダイヤル回し続けなきゃならないんですもの。まぁスティーヴ・ヴァイの次に小林旭を聴きたい時には便利ですけどね。これは1DINで表示スペースが小さいから2DINになれば……と言う問題ではないはず。

  • 私もPCのライブラリはほとんどWAVファイル(CD取り込み音源)で、DL購入(mora)したAAC音源とFLAC音源が少々といったところです。クルマ側がWAVやハイレゾ系フォーマットに対応していないため、致し方なくMP3に変換して同期しています。
    DEH-970のUSBメモリ/SDカードはWAVファイルには対応しているようですが、いかんせんWAVはサイズがデカくなってしまうのでちょっと使いにくいところですね。
    音楽リスニングスタイルの多様化に対し、車載オーディオが機能面で追いついていないのは間違いない…「音楽を聴く場所」としての車内は他では得難い空間であり、ここにメーカーにしろユーザーにしろ、何かしらの矜持はあってほしいと個人的には思います。
     
    イコライザーがフラットの設定ですでに「ドンシャリ」になっている純正オーディオは結構ある(国内外問わず特にBセグ以下)ように思います。こういったオーディオ環境(微小信号再生性能に期待できない)の場合、非可逆圧縮フォーマットで情報量を絞ったほうが「それっぽく」聴けるという事はあるかもしれません。しかしこれは無用な忖度であり、与えられた条件で可能な限り高忠実性を目指すのがあるべき姿と考えます。

    • あれ?.wavも行けたのか……。Macユーザーの矜恃として.aifが多いので(笑)、それであきらめたのかなぁ。マジな話(いや、いつもマジですけど)、もう車載オーディオってメーカーに旨味がないと思うんですよ。いくら高音質ってやっても買う人いないですもん。そもそも普段聴いている音源がMP3とかの圧縮音源ばっかりってのもあるでしょうし、家にそれなりの音響システム組む人なんてもっと希少でしょ?クルマの中だけ高音質ってこたぁないでしょうから。
       
      いや別に万人がハイファイマニアたれってことじゃなくて、選べるようにしておいてくれよって話です。
       
      音源を仕上げる段階であまりにもマキシマイズが過剰だし、生楽器の生演奏じゃなくてプラグイン音源のプログラミングだから、コンプかけてリミッターで保険かけないとどうにもならない曲ばっかりってのも、制作サイドの問題としてあることはあるんですけどね。ちゃんと風通しの良い音楽が聴きたいですわ。

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