それは50km/h

我が家に束の間、プジョー 207がやってきた。家人のシトロエン C3入院に伴う代車である。入院の詳細は別途エントリーするとして、こちらでは207のことを書いてみよう。「おめー、こないだも207のこと書いてたじゃねーか!しつこいんだよ!」と思われる読者もきっといると思うが、意地悪目線で運転してみたら、「なんだ?けっこういいじゃん!」となったので、書いておきたいのだ。

Peugeot 207-1
はい、今度は赤いヤツ

プジョー 207(個体の車検証による)
総走行距離:約9万km
初年度登録:平成24年=2012年
形式:ABA-A75F01
原動機の形式:5F01(1.59リットル、ガソリン)
全長:404cm
全幅:175cm
全高:147cm
車両総重量:1,485kg(前前軸重:780kg、後後軸重:430kg、車両重量:1,210kg)

搭載されるトランスミッションはAL4。90-00年代に渡って日本国内導入PSAグループ車の悪評を高めた4段ATである。ギア数が少なく、壊れやすく、修理代が高価。筆者が思うに、平均速度が遅く信号の多い日本国内の道路事情とは、シフトスケジュールが噛み合っていないのだ。学習機能で乗ってるうちに徐々に改善?いやいや、1速はほぼ発信オンリー、4速はクルーズギアだから、日常は2速と3速だけで賄うことになる。学習しようにもギア2段じゃあねぇ。一部のヘンタイ(もしくは廃人)には、「不器用だが憎めない」と温情をかけられていたが、今回の207試乗で筆者もわずかだがその心情がわかるような気がした。少なくとも207というパッケージでは、これもアリという程度には納得できた。試乗は短時間だったが、筆者定番のワインディングロードで行えたので、それなりに多くの場面を確認できたと思っている。

乗り込んでまず「お?」と思ったのはハンドル径。こんなに大きかったか?数値計測はできなかったが、少なくともプン太郎、C3よりも一回り径が大きい。ということはクイックな挙動を期待してくれるな、という無言のメッセージである。走り出すと実際そのとおりで、加速はトロいし、旋回挙動も反応はのんびりだ。市街地のような交通条件での右左折は、イメージするよりも一呼吸速めにハンドルを切り始める必要がある。一呼吸は大げさか。半呼吸。しかしそれはプン太郎やC3と比べてのことで、207固有のテンポが把握できてしまえば、腐ってもプジョー、起承転結のある旋回ができる。コーナー入口で適正速度までの減速をしっかり遵守さえすれば、旋回外側の前輪の沈み込みを確認しながら、ラインはどうにでも選び放題だ。

だがその時惜しいのはブレーキで、キャパシティはちゃんとあるのだが、初動時の描写があやふや。ブレーキマスターを車体左側に置き去りにして、右側のペダルからリンクを介して繋げているためだろう。ブレーキそのものの素性ははっきり言って上等なのだ。ギアをニュートラルに入れて空走状態から停止直前の挙動は美しい。別に信頼をおけないわけではないが、制動力描写が甘いのはかなりの減点対象。

Peugeot 207-2
このドアミラーはPSA車のあれこれに引用されている

さてAL4だ。加速はともかく、この旋回時のAL4のシフトチェンジが、運転手の「こうあれかし」に、意外にもフィットしているのだった。今様の多段ATと比べれば、AL4の1速はけっこう引っ張る方ではあるが、やはり「発進専用ギア」ではある。前述したとおり4速はクルーズギアだから、日常動作のほとんどを2速と3速で賄うことになる。慎重に速度を計りつつコーナーに入っていき、こうと決めたラインを走り、コーナー後半で脱出しようとする時、AL4はちょうど良いギアをすでに用意している。いや、ギアを換えていない。換えようがないというか(笑)。大事なのは運転手が207の得意な速度域を理解し、固有のテンポで操作することだ。筆者が体感したところ、207は50km/h前後がもっともきれいにバランスしており、プン太郎やC3に慣れた身なら、半呼吸待ってハンドル操作すると挙動が美しい。

もうひとつ5-60km/h上限を教えてくれるのがホールド性の低いシート。珍しく家人が開口一番「どうやっても運転姿勢を作れない」と不平を漏らしたもの。許容する運転姿勢がえらく狭い。つまりプジョーが想定した背筋を直立気味に設定して、肩甲骨まできっちりシートバックに押し付けないと、30km/hで曲がる市街地のカーブですら上半身が揺すられる。それではとそういう姿勢を作ると、微妙にハンドルが遠い。RHDプジョー車のお約束のペダルオフセットも甚大。最悪左と右を入替えただけ、百歩譲ってもペダルを右に寄せるスペースを確保するために、運転席をやや後ろにずらした(が、ダッシュボード造形はそのまま)可能性がある。そんなわけでどうやったってまともな運転姿勢を作れない207だが、そうであればこそ、50km/h前後でまとまっている、ある意味限界の低さがありがたい。

Peugeot 207-3

その証拠に、速度計の数字は、50や90km/hを示す数字が40km/hごとに大きくプリントされている。また念の入ったことに、50、90、130の目盛りは太い赤ラインだ。プジョーは「だいたいこの辺の速度で走ってね」と言っているわけだ。さらにハンドル造形もそれを裏付ける。ワールドスタンダードの10時10分で握ると、サムレストが無い代わりにハンドルを巻いている革のつなぎ目がちょうどその位置にあって、一応そういう握り方でもイケますよとポーズは取っている。だが実は8時20分付近にもちゃんと指がしっくり収まる窪みが付けられており、大きめ径のハンドルを、8時20分、送りハンドルで操作すると、ゆったりしたテンポの207の挙動に、操作のテンポを合わせやすいのだ。わずかながらC3にもその傾向はある。やはりフランス車の伝統8時20分握りはそう簡単に消滅しないようだ。ホールド性の低いシートもその速度域なら気にならない。その時1.6リッターの5F01型エンジンにAL4の3速(場合によっては2速)が当たっていれば、旋回後半の立ち上がり加速も痛痒なく行える。C3の1.2リットルエンジン+EAT6ではこの旋回脱出時にヘタをすると1段ギアを落とすことがあり、緩いエンジンマウントと合わさってけっこうなショックが発生する。ギア数が少なくて良かった……という日が来るとは思わなかった(笑)。

加えて個体のタイヤはスタッドレスタイヤ(ピレリ アイスアシンメトリコ)。タイヤもタイヤなら、キャラもキャラである。旋回時の限界が低いのを責めるのは間違いだ。タイヤ選択次第では、快適な速度域も少し上に移行するか?と思ったが、仮にタイヤグリップが改善されても、旋回時の余裕が少し増えるだけだろう。なんと言っても加速は遅いし、制動初期の描写は甘いのだから。

こうやって考えてみると、加速・旋回・停止の三要素が、特定の速度域ではきちんとバランスするように調律されていることがわかる。たまたまそのバランスポイントが、プン太郎やC3よりも低いためにイライラして、結果的に乱暴な操作となり、207の美点を見逃す結果になっていただけだったのだ。207は限界がどうのこうのと言う車種ではなく、平坦な街中を、リズムに乗ってヒラヒラと走るべきクルマなのだった。そしてこれはこれで美しい。207固有のおいしい速度域がわかれば、AL4搭載車でもストレスは少ない。一部ヘンタイの温情はこの理解あってこそだったのだろう。それを見抜くことができなかったのは筆者の未熟ゆえだ。

Peugeot 207-4

この個体は9万km以上走っているので、ボディはなんだか頼りなく、あちこちガタピシ言う。足の動きもすでに美味ラインを越えてしまっているだろう。それでも一定レベルの世界をきちんと描き出していて流石だ。初動があやふやなブレーキ、ペダルオフセットは大いなる減点対象だし、今回見直したAL4だって、基本的に壊れやすく修理代が高価だという爆弾を抱えてもいる。冷静に判断すれば「プジョーが考える買い物グルマ」でしかないが、のんびりトコトコあちこち走りに行きたくなる素養は持っている。少なくともチューニング領域では、プジョー、端倪すべからざるものがある。

少なくともパッソやヴィッツで「用事がなくても走りに行きたくなる」ということはない。日本国内にあるのかどうか知らないが、エンジンもシャシーもこのままで、LHD、5MTという個体があったら是が非でも運転してみたい。そういう仕様なら、休日に意味もなくちょっと走りに行こうかな、と思えるはずだ。その時それでも問題があるとしたら、それは緩いエンジンマウントと総重量1.5tという車重だろう。本当にそれが足かせになるのかどうか、ぜひ確かめてみたいものだ。

8件のコメント

  • 現在我が家にもある207は多分同じグレードなのですが、素晴らしい足回りとダメダメなATしかフォーカスしてませんでした。やはり惜しむらくは右ハンドルとATのセッティングですかねえ。その他は骨太な佳作だと思います。内装はプジョー独特の野暮ったさはありますが、我々の年代はむしろ落ち着くのではないでしょうか?代車で現行208と5008運転させてもらいましたが、もう自分には洗練され過ぎて落ち着きませんでした。

    • そうなんです、きっと多くのオーナーが「足は良いんだけど、ATがなぁ」と思っていると思うんです。でもそれは多分ヘンタイ特有の正常化バイアスじゃないかな、とも思うんです。ダメなクルマの良いところを無理やり発見して悦に入るというか、あばたも笑窪というか(笑)。つまり207の素グレードって、特別良いところがあるわけじゃないんですよね。「敢えて褒めるとしたら足の動きかなぁ」程度。でもそれはもともとのプジョーの地力であって、格別工夫努力をしてああいうものになったわけでもない。206比ボディの剛性感は上がったけど、代価として重くなっちゃったし、加速や制動は同じカテゴリーの国産車と比べても、決して良くはない……というか、ヘタしたら負けてる可能性もある。そういうマイナス地点からの評価で足だけは褒めてもいい……という程度。しかしそんな風に国産車と比較するなら、207はLHD+MTで比較しないと公正じゃないとも思うのです。比較対象だって、ヴィッツならレンタカーや営業車に供されてるモデルじゃないと。そういう比較で考えると、やっぱり207素グレードは「フランスの買い物グルマ」じゃないかなぁと。それ以上でも以下でもない。

      それじゃやっぱり商売にならないから、208、308や00モデルみたいにならざるを得ないんでしょう。実際2021年モデルの前記車種は売れてますもんね。ATが軒並み多段化して、加減速マナーがいっきに向上したのが主要因だと思いますが、見た目や触った感じの洗練も効いているんだと思います。目出度いことです。

  • ご無沙汰しております。AL4と聞いて(笑)久々のコメントです。
    なかなか4速に入らなくて街乗りだと「ガソリン代もったいない」感があるAL4ですが、勝手にシフトダウン、下り坂でシフトアップしないなどエンブレ効かせた運転ができるし、低めのギアでキビキビ走らせられるし、2速の範囲が広くて結構引っ張れるし、という風に思えば走りは悪くないです。もしかすると2リッターと1.6リッターで印象が変わるのかもしれないですね。
    そんなわけでAL4歴13年になりました。最近の8AT車に乗っても「AL4ならシフトアップしないでそのまま回してくれるのに」と思ってしまうので、自分はヘンタイというよりAL4に隷属してるっぽいです。

    • おお!お久しぶりです。今こうして207のスイートスポットを見つけた目で読めば、えすぷれそさんのAL4も胸に沁みますますねぇ(笑)。でも確かに2リッターか1.6リッターかで印象は違うと思います。あとSWだと後ろが重いじゃないですか。前後重量バランスが違う。それもまたAL4の印象に影響はあると思います。んー、でもエンジンブレーキをかけてくれている印象はなかったなぁ(笑)。わはは。

  • そういえば私もAL4のクルマ、乗ってました、308sw。全く悪い印象はなく、トルク感があって良い感じくらいに思ってました。何より、プジョー505の本物のネコ足に乗ってからこの車が欲しくなったわけで
    、踏襲したネコ足が良かったです。それよりも、今のレネゲードトレイルホークの9速ZF製のATが、クセがありすぎて(笑)実質1速は4WDlowにしないと入らないので、2-7速が常用、8-9速が高速という感じです。とにかく低速のギクシャク感が。。。ギヤが頭が悪い感じで。さらにマニュアルにしてシフトダウンした時に、なぜかエンブレがすぐ利かず、逆に加速するような(笑)感じで、なんだかよくわかりません。まあ、文句出つつも、そんなのも段々可愛く思えてくるんですけどね。

    • 多段化してもシアワセにはなれないのか……。少なくとも私の周囲の実例としてはPSAのEAT6が小排気量エンジンとの組み合わせでは、という条件付きで、よく出来ていると思います。ただエンジンブレーキはマニュアルで2段くらい落とさないと効かないかも。まぁ人様の考えたシフトスケジュールですからね。自分の思った通りにゃならなくて当然ですよね。

  • こんばんは。詳細かつ的確なレポートをありがとうございます。分析がさすがですね。プジョーが考える買い物車という表現は、なるほどと思わせられました。メーカーが設定した適正速度というのは、あるんでしょうね。インプレッサに乗っているとき、50~60だと全身の力が抜けて気持ちよく走れることがわかりました。まさに同じことだと思います。多くの方はインプレッサなんか大したことは無い、と思っていることと思いますが、そのスピードで走ると無茶苦茶楽で気持ちいいいんです。そもそも207はそういう(買い物)車で正しいのでしょうから、それで正解なのですね。代車に短時間乗っただけでも分析できる力に感服します。

    • 恐れ入ります。思うに、ここ最近ようやくクルマの言うことがわかってきたように思います。これまでは自分の基準を置いて(現在ならアバルト プントエヴォの乗り味乗り心地)、で、それにて対して試乗車がどう振る舞ったかという比較で書いていた。まぁ大抵の場合、プントエヴォのようには走らないわけで、それに対してぶーぶー言っても詮無いこと。そうではなく「このクルマはどう座られたいのか。どう姿勢を作らせたいのか。どう加速・旋回・制動してほしいのか」を、まっさらな心(笑)で聞き取ることが肝要だということがわかってきました。そうじゃないとお互い幸せになれない(笑)。インプレッサもしみじみしましたが、207もどういうヤツなのかわかれば「こっちでちゃんとやるから」という気持ちになれるというもんです。

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