岩手探訪#3・真夏の遠野2022

プン太郎の足周り不調が発覚して以来、二の足を踏んでいた岩手県探訪をロードスターで再開できたことは実に嬉しい。今回は遠野市に行ってきた。古い建築物マニアの家人も同行した。

筆者は盛岡・花巻に友人がいるので、これまでE4東北自動車道より西、かつ盛岡以南を走るK1やK37、K49などは何度も味わってきた。しばらく走っていないが、山間の県道三昧コースはこのブログ読者に大推薦である。逆にだからこそ#2の東磐井広域農道と合わせ、2022年はE4よりも東のエリアから着手している。では今回、なぜ遠野なのかと言えば、2020年秋の遠野トリップが極上楽しかったからだ。

ロードスターで行く!第一次JR遠野駅前基礎調査

このトリップに加え、遠野で買い求めた絵本「でんでらの」の印象が強烈だったせいもある。この絵本は言わずと知れた名著「遠野物語(柳田国男著)」を、リミックスと称して再解釈を試みた「遠野物語remix(京極夏彦著)」からの派生作品。これまでEDOでの2度の遠野ツアーではあまりピンと来なかったのだが、京極版遠野物語を一読して遠野の伝承も、その伝承を生んだ遠野という土地も一気に大好きになってしまった。収録されている怪異譚の中でも群を抜いて怖い「山口のでんでらの」にまつわるエピソードを、はたこうしろうの絵で大人の背筋を凍らせるような絵本ができあがったわけだが、本当に怖いのはでんでらのが2022年の今も(場所として)実在し続けていることだ。あの遠野の、今もあるでんでらのに、自ら立ってみたかったのだ。

定石どおり往路は下道のみとした。宮城県内は定番コースで伊豆沼まで行き、そのすぐ北の石越から県境を超え一関へ。一関は市街地へは入らず、工業団地の端からK14で北上。奥州市江刺でK251、次いでK8に乗り換え、東北に進む。人首町でK27に乗り換えR107で遠野に至る。

大和町田園地帯定点観測地点2022夏
大和町の田園地帯・定点観測
ファミリーマートでの豪華朝食
大郷町のファミリーマートで豪華朝食
とじまりしっかりどろぼうがっかり看板
お馴染、とじまりしっかりどろぼうガッカリ看板
地産地消看板
その真向かいにある地産地消看板
大梢定点観測地点
定点観測
石越・花泉定点観測地点
宮城県石越町と岩手県花泉町の境目。
ここも定点観測地点
岩手県K14定点観測地点
岩手県K14、東北新幹線トンネル脇の定点観測地点

特に奥州市の人首(ひとかべ)の街並みは大好物。街並みと言ってもわずか4-500mくらいなのだが、昭和4-50年代の空気を今もまとっていて郷愁を誘う。できるだけここを通りたい。今回は家人がここで大興奮してしまい、しばしロードスターを停めて撮影大会。以前EDOで来た時もそうだった。

人首町内
人首・呉服店
浅倉呉服店

人首でK8と交わるK27とその先のR107で一気に遠野市内まで走りきるのだが、この区間を走るたびにいつも遠野という土地のことを考える。とにかく山また山、民家も街路灯もない。柳田国男も花巻方面から遠野に向かうと「人家の煙火も絶え」と書いている。遠野市は周囲をぐるり山に囲まれ、どちらから目指しても峠を超えなければたどり着けない。地形的に周囲から隔絶されていたからこそ、不可思議な伝承が生まれ伝わってきたのだろうとも思う。人家の絶えたK27とR107の道のりには、気持ちを遠野に調える、必要不可欠な効果があると筆者は思っている。

K8とK27接続点
K8とK27の結節点

朝6時に仙台を出発し、遠野市内に入ったのはもうすぐ11時になろうかというタイミングだった。塩梅良く空腹に。遠野と言えばジンギスカン。そこで有名店「あんべ」さんへ。なんと開店が10:00なのだ。

じんぎすかんのあんべ

とは言え11時前である。当日最初の客かと思い、おそるおそる入口の引き戸を開けると、なんと食後の会計をしている客がいるではないか。この段階で半分ほど席は埋まっており、もうもうと煙を上げつつラム肉を頬張るご夫婦らしき二人客、2卓に分かれた若者7名のグループには、今しもビールが運ばれてくるところだった。繰り返すが11時前である。すげえな、休日のあんべ。

ラム肉3種盛り
ラムロース、肩ロース、モモの三種盛り!
じんぎすかん調理中
さぁ焼け、ほら焼け
じんぎすかん実食中
う、うまい……っ!

3種のラム肉をがっつりいただき大満足。会計をすませて店外に出ると、順番待ちのお客がわらわらと。停めていたロードスターの脇と後ろにライダーのおじさんたちが休んでいた。見れば秋田ナンバーである。「秋田からですか?おつかれさまです」「仙台の人だったら牛タンいつも食べてんの?」みたいな他愛のないやりとり。

さて腹ごしらえも済んだ。いざ、でんでらのである。その場所は郊外である。謂れを考えれば当然である。R340から山中に入って行くのだが、道がわかりにくい。これも当然だ。遠野の民俗伝承遺跡は、すべて生活に根付いた、生活のすぐ隣にあるものだ。有名な神社仏閣のように道路案内や敷地が整備されているわけではない。むしろひっそり佇んでいるものが多い(それでも最低限の良識ある案内や説明文はある)。あちこち迷ったがたどり着くことができた。

でんでらの2
山口のでんでらの
でんでらの1

でんでらのとは、デンデラノ、でんでら野などとも書き、要約すれば姨捨山のような場所なのだが、城があった時代には処刑場でもあったらしく、つまり人の死に場所である。だから人死にに関する怪異も伝わっている。特に集落に死者が出る前夜に知らせがあるというくだりは本当に怖い。実際にそこに立ってみれば、田園地帯の中の小高い原っぱである。家を出た老人たちがここで寝起きしていたのか?と思わせる藁小屋が、脇にちんまりと建っているだけである。眼下には集落や田畑、川などが見え、鳥や虫の鳴き声だけが満ちている。良く晴れた夏の昼下がり。我々以外には誰もいない。車も通らない。ひたひたと寂しい場所だった。

寂しい場所だったが、実際に訪れることができて大満足である。次はJR遠野駅前にロードスターを停め、街中を歩く。遠野に住まう人はどう思っているかわからないが、遠野市街地は古い建物にこそ味がある。ここで言う古い建物とは明治以降の建築物のこと。家人の話を聞くと、意匠、特に飾り窓や軒下、羽目板、瓦屋根などに施される装飾は流行り廃りが激しく、令和の今に残るものは多種多様である。意匠の創意工夫はもちろん、それを現出させる職人の腕など、視点がわかると日本全国どこの街でも見どころだらけということになるらしい。遠野市郊外の家々は建て替えが進みモダンな家が増えている印象があるが、市街地には明治、大正、昭和、平成、令和と生き延びているような物件が多いように見える。目をぎらぎらさせた家人といっしょに駅前からスタート。

JR遠野駅
遠野旅の産地直売所
夏休みの小学生男子・遠野版2022
まん十や定休日
遠野市街地
宇迦神社
遠野市街地民家

気温が30度に達するかどうか……という、猛暑でないだけマシだが、やっぱり暑い。遠野市役所真向かいの目当ての「まん十や」さん(という名の饅頭屋)が定休日で心底がっかり。「こども本の森遠野」という意欲的な公共施設を見つけてすわ入館しようとしたら、コロナ対策で予約制のうえ完全入れ替え制が敷かれていた。やむを得ない。それに子ども最優先の施設だし。や、考えてみたらこの日は夏休みに入って最初の週末。しかも町内商店街のおまつりが開催されていて、あちこちに子どもたちや親子連れがいた。夏休みらしくていいねぇと喜ぶ反面、おっさんの自分は暑さにやられる直前。カフェとかないのか?とうろうろしたら、おまつり広場のような場が現れた。クレープ屋さんがキッチンカーを出していた。冷たい飲みものくださーい。ついでにクレープもくださーい。ということで、ようやくテント下のパイプイスに座ってひと休み。

クレープトリムキッチンカー
クレープトリムさんのキッチンカー
レモネードとレモンスカッシュ
WOW!レモネードとレモンスカッシュ
クレープをいただきます
う、うまー……い!

遠野市街地は日曜日お休みの店が多いようだ。それは人の暮らしとしては正しいことだと思うが、旅人からするとちょっと寂しい。次こそは泊まりがけプランで遠野に来よう。そのための宿も目星をつけた。そんなことを考えつつさらに街区を歩く。

遠野市街地そぞろ歩き
あかつきスタジオ
な、なんと!(有)あかつきスタジオを発見!!

2020年に昼ごはんを食べた「パブ&レストランたくみ」さんは閉業していた。栄枯盛衰が哀しい。確とした記憶はないが、軒を連ねるお店も新陳代謝が進んでいるようだ。100年以上前の伝承が残る一方で、現代の地方都市が直面する問題はここにもある。しかしそれらが渾然一体となった遠野という街に、筆者は多いに魅力を感じる。仙台からは少し遠いが、クルマで訪れる意味は大きい。

お土産など購入し14:00を過ぎた。陽がある内に帰宅したい。駅前駐車場は隣の「旅の蔵遠野」で買い物をすると割引される制度があり、2時間停めて80円だった。思わず目を疑う料金表示である。出発後はガソリンを補給し、迷わずE46釜石自動車道へ遠野ICから乗る。花巻JCTでE4に合流、北上金ヶ崎PAで仮眠を取りつつ大和ICまで南下。どうもこの高速道路巡航で肩が凝ってしまったようだ。帰宅して仮眠を取って気がついた。NDロードスター、高速巡航が苦手かも……というのは筆者の誤解だったようだが、やはり得意というわけでもない。肩が凝ってしまった理由はもう少し分析してから考察エントリーをアップしよう。11時間/401kmの旅。それはロードスターが疲れにくいクルマだからである。病気以来400kmオーバーのツーリングは滅多になかった。遠野までの片道を走破した時点で「あれ?なんだか疲れてないぞ」だった。それもまた嬉しい。岩手探訪、次はいよいよ北エリアか。

北上金ヶ崎PA

遠野物語remix 著者 京極夏彦 角川文庫 定価660円 ISBN:9784044003180

えほん遠野物語 でんでらの 柳田国男/原作 京極夏彦/文 はたこうしろう/絵 汐文社 1、650円 ISBN:9784811324821

12件のコメント

  • とても良い旅でしたね。
    画像からひしひし伝わってきます。
    というか、フレーミング、めちゃくちゃ上手くなってませんか?
    空の青さを見せたいときは、きちんと空の面積を多く取ってるし、お見事な画像で見入ってしまいました!
    車の方も、これだけ走れば少し自分なりの楽しみ方が分かってきたのでは?なんて思ったりしました(^ ^) 誰がなんと言おうと、それさえ見つけちゃえば勝ちですもんね。

    ちなみに、勘違いかもしれませんが、7/24(日)の朝、菖蒲田ですれ違ってないですよね!?(笑)

    • みいさんで良いんですよね(笑)?写真の件、嬉しいですねぇ。今回は水平とフレーミングに気をつけて撮影してみたので。5月のオフ会をレポートしてくださっていたみいさんのブログの写真、あれを見てかなり衝撃を受けまして。「写真うまい人ってこんなに違うのか!」と。今後も精進します。
        
      ロードスターについてはまだあれこれ考えている最中で、まだうまく言葉にできません。楽しいことは間違いないのですが、その楽しさの正体は何か、というあたりはもう少し慎重に見極めたいです。で、24日の菖蒲田はオレじゃないです(笑)。

      • あー、すみません!(笑) ハンドルネーム、クッキーに残っていて、そのまま送信してしまいました(汗)

        24日、acatsukiさんじゃなかったんですね? あれ〜? なんとなく面影はあったんですが(笑) そして、びっくりしたような表情だったんで、もしやと思ったんですが。。。

        • だって、その日は遠野に行っていたんだもん(笑)。

  • あんべさんのジンギスカン、懐かしい!十何年か前に友人のsmartで遠野巡りした時に伺いました。北海道のジンギスカンの食べ方に似てるので好きなんです。遠野の街歩きという視点いいですね〜私も宿を取ってゆっくり遠野の街を歩いてみたいです。それにしても遠野は奥が深い。でんでらの、聞いたことはあったけど知らなかった。行ってみたい!凄く興味をそそられました。NDで行く旅ホント楽しそう、くー!

    • 実際に遠野の遺跡とか史跡を巡ろうと思うと、たぶんバイクが最適だと思います。それぞれが遠野平野の中にぱらっと散らばっている上に、駐車場がないんですよね、どこも。本当に生活圏のとなり……というか、生活圏の中にそういうものがあるので当然なんですけど。なので街歩き、これはこれで楽しいです。
        
      でんでらの、ぐっと胸に迫るものがありましたねぇ。晴天の訪問でしたが、これがしとしとと雨が降る日の訪問だったら、寂しさに耐えられないかもしれません(笑)。でも本当に行けて良かった。

  • どろぼうガッカリ看板って結構あるものなんですね。

    遠野ってエモい街並みでいいところです。ぜひ行ってみたいです。

    あかつきカメラ。ここはやっぱりご夫婦で写真撮ってくれば良かったのに。それか何に使うかわからない証明写真とか!

    • どろぼうガッカリ看板はあの地域の防犯協会と警察の合作みたいなので、伊豆沼近辺の農道にしか設置されてないんです。私が確認した限りではもう1枚あって、そっちはイラストも色あせてなくて(そう!どろぼうのイラストが本来描いてあるんです)、もっと美しい(笑)。栗駒山の遭難防止看板も味があって好きですねー。「捜索費用、莫大にかかります」とか。
        
      あかつきスタジオで写真撮ってくるのは思いつかなかった!迂闊!もしCMソングをご所望なら一肌脱ぎたい(笑)。

  • こんばんは。良かったですね~。遠野。しかも下道で行くっていう発想が凄い。私には無理。そして遠野から森の中を北上するのが、川井住田大規模林道!まさに出発点に立たれたわけですね。まあ、林道を走るのは、雨の後だったので、難しかったと思いますが。遠野は本州で一番遅い桜が咲くということが市民には結構自慢だそうですよ。弘前より遅い、いつもなら5月10日過ぎとか。とにかく、遠野は不思議かつ癒される場所ですね。遠野城から見る景色もまた素敵です。もし可能なら、冬にも行ってみたいです。

    • もう大満足の1日でした。そして川井住田大規模林道!?これは走らねば。今回遠野を訪れて、春夏秋冬を見てみたいと思いました。冬にどうやって行けばいいのか……。だれかディフェンダー90寄付してください。

  • 天気に恵まれるとツーリング楽しくなりますね。自分ももう少し食に振ったツーリングをせねばいけませんね(汗 ちなみに川井住田大規模林道は、素晴らしい線形と所々景色が開けて幸せな眺望が開けるはず。#4?かな。

    • 川井住田推しふたつめキター!! そうですかそうですか。そりゃあ走ってみねばなりませんね。あとMotiさんの場合は別に食にウェイトを移さずとも、素晴らしいツーリングコースを開発して教えていただければ我々は万万歳であります。

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