オーディオ環境改善報告(エイジング後)

ロードスターに積んだスピーカー BLAM RELAXシリーズ 165RS2 のエイジングがどうやら完了した。7月末に純正スピーカーから交換し、8月末に完了。当初は2週間くらいで終わるかと思っていたが、1ヶ月もかかった。その理由は後ほど。

さてエイジングの終了はある日突然やってくる。「あれ?なんだか音が違うぞ!」となるのだ。どう違うか。交換直後の報告では“はっきりと解像度は上がった。イコライザー無調整の状態でも高音域は充分にあり、音像全体が肩の辺りまで上昇した。膝、腰のあたりでわだかまっていた純正環境とは大違いである。これは高域を担当するツイーターが良い仕事をしている証拠だ。高域が改善されたことによって、低域も輪郭がしっかりした。”と書いた。エイジングが終了したら「中域が充実し、高域と低域の連続がなめらかになった」。これがどういうことかというと、早い話、歌とギターがちゃんと聴こえるということだ。ポップスだのロックだので中域の周波数はとても重要だ。その次に重要なのは高域、最後に低域。しかし90年代に楽器も録音機材もデジタル化が進み、結果的に高域と低域ばかりが強調された音楽が一気に増えた。10年代以降は楽器も音響関連のプロセッサもコンピュータ上のソフトウェア化が進んだことで、余計な倍音が駆逐されてしまい(というか再現できない)、余計にその傾向に拍車がかかった。そこにディスコから取って代わった「クラブ文化」が低域重視に拍車をかけた。ああいうところの音ってのは、とにかくウーファー(低音域の周波数だけを鳴らすスピーカー。業界ではロー箱などという)をがっつり鳴らすのが「かっこいい音」なのである。フロアで踊りながら腹の底にずんずん響くのがたまんないのだ。まぁ音の流行なんてそんなものだ。この高域と低域だけが充実している音質を「ドンシャリ」という。

エイジング後、スピーカーのキャラや実力が明らかになった現段階で判断すると、マツダコネクトのアンプ部もドンシャリキャラと言える。2015年デビューだから仕方ない。ヘッドユニット部はともかく、アンプは別体にしたかったのだが、マツダコネクト(以下マツコネ)はオーディオ、ナビだけでなく車両設定、ダイアグノーシスまで食い込んでいるので、技術的にオーディオだけこれをスルーするのが難しく、当スタジオではスピーカー交換とデッドニングのみの処置とした。前述のとおり、エイジング完了後は中域もしっかり鳴るようになったので、純正状態と比べれば、解像度は天地ほど違う。極端に言えば曲の印象が変わる。「あれ?この曲、こんなにカッコ良かったっけ?」となる。大勝利であります。ただしマツコネアンプが生来持つキャラクターとして、全体的には低域がやや多目な印象がある。

当ブログコメント欄に頻繁にコメントをくださる筆者の友人みいさんから音響測定アプリ「Sonic Tools.app」を教えてもらい、今回これを使って測定した結果が以下の画像である。測定は幌をかけた状態で、同じ2曲を同じボリュームで再生した。以下の画像はまずエンジン停止の状態(アクセサリ電源もオフ)、エンジン停止+アクセサリ電源オンの状態で曲を2曲再生、次にアイドリングのみ、そして次にアイドリングしながら2曲を再生した。音源はiPod Touch 3rdGen.に収録したAIFF、つまり非圧縮音源をUSB経由。マツコネの内蔵イコライザー(EQ)はフラットな状態である。

Fig.1 エンジン停止
Fig.2 曲1(エンジン停止)
Fig.3 曲2(エンジン停止)

Fig.1エンジン停止状態ですら低域はもっこり盛り上がっている。まったく音を発するものがないと思っていても、実は様々な生活音が溢れている。これを暗騒音といって、ある程度の人口がある場所にいる以上避けて通れない。低域が反応しているのは、単純に音波は低いほどエネルギーが大きい(だから低音だけは遠くまで伝わる)ことと、ロードスターのキャビン形状による共鳴が相互に影響した結果だと考える。つまり仙台で乗るND5RCロードスターは、素の状態で30Hz周辺に定在音波エネルギーが存在しているということだ。

曲1は「Sparkle/山下達郎」でアナログ録音時代の極上品。周波数も上から下まできれいにバランス良く収録されている。エンジニア吉田保おそるべし。曲2は「Fortune Teller/Four Play」で、こちらはデジタル時代の超ハイファイ音源。演奏者がトップガン級なので、楽器を完全に鳴らしきり、しかも余計なプレイはしていない。結果的に濁りのないクリアな音像になっている。ただしこちらは「流行りの音」にしようとしたのか、やや低域がブーミーではある。どちらも曲や演奏がゴキゲンなだけでなく、録音芸術として一級品であることは請け負う。そういう2曲で確かめてみると、曲1も曲2も周波数の分布カーブはだいたい同じで、エネルギー量が若干違うだけ。

では次にエンジンをかけてみよう。アイドリング中のキャビン内の音環境はこんな感じになる。

Fig.4 アイドリングのみ
Fig.5 曲1+アイドリング
Fig.6 曲2+アイドリング

キャプチャリングの瞬間で同じ曲でも波形描写の結果が微妙に違うが、実際に運転席で聴いている限り誤差の範囲である。アイドリングの有無で低域(30Hz周辺)が底上げされていることがわかる。先にそもそもの音質が「低域がブーミー」と書いたが、アンプのキャラに加えキャビン形状による共鳴でも若干ブーストされていると予想される。あとは納得できるまでEQでLowを減じていくだけなのだが、残念ながらこの「Low」が調整できる周波数がわからないうえに、調整帯域幅(Q)もわからない。本気で追い込むならBOLTジャパンのTさんから勧められたとおり、DSPを導入して削ったり足したりするしかない。純正DVDプレイヤーを取り払って、そこに無理やり1DINオーディオヘッドユニットと別体アンプをインストールという魔改造に近い荒技もお願いできなくはないだろうが、そこまでやるか?という迷いがある。

さてエイジング完了までに1ヶ月以上かかったのは、オープン時には音楽を聴かないからである(笑)。夏場でもなるべく幌を開けて走ってばかりいた。クルマで走っていて、「その瞬間そこにある音」は人工の音(音楽)よりも断然存在感があると筆者は思う。だから幌を開けて走っているほとんどの時間、外界の自然音と音楽が相容れないのだ。もちろんその場所、その時間、気温や湿度、なによりも眼前の景色にドンピシャな曲が偶然流れることもないわけではないが、そんなことは1年に1回あるかないかである。やっぱりその土地の音、風の音を聴いて走るのがオープンカーにはふさわしい。だから前述の魔改造に躊躇してしまう。それなりの改造費を費やしても、それが活躍する機会が少ないのでは、コストパフォーマンスが悪い。当面はマツコネ内のEQで低域を少し削ってバランスするかどうか検証しようと思う。

4件のコメント

  • スペクトルがあるととても分かりやすいですね! 興味深く読ませていただきました。50-100Hz成分がかなり多いですね。ただ、意外なのは250Hzあたりのモコ感のある音が抑えられていることです。実際乗って聴かないと数値だけではアレですが、このスペクトルからみると、思ったほど悪く無いように思います!

    • ということは「金かけた割には良くならなかったエンディング」を期待してましたね(笑)?? ま、実際100点満点ではないことは確かですが、純正状態と比べれば月とスッポンですので「大勝利」であります。ここ最近気になるのはウッドベースの輪郭がぼやけることです。250Hzあたりがぼやけの原因かどうかはわかりませんが……。あれは本当に録りも難しいし、ミックスも難しいのでぼんぼん言っちゃうのは仕方ないと思いつつ、オーディオ側にまだ調整の余地はあるな、と思わされます。

  • Fig.1の波形は面白いですね。これは地域によって大きく違うかもしれませんが、現代社会では暗騒音との付き合いは避けて通れないように思います。これが人間の可聴帯域を超えて低い周波数になると、音が振動に変わってポルターガイスト現象の原因になったりします。
    人間の聴覚特性(当然ながら「声」の帯域=中域の感度が高い)と暗騒音・環境音にマスキングされやすい低域・高域の特性を考えれば、特にカーオーディオでドンシャリ傾向にするのは正論ではあります。しかし何事もやりすぎは良くないし、EDMが音楽の全てではないですよね。
    スピーカーにおけるエイジング…もちろん全箇所経時変化するわけですが、特にエイジングの影響が大きいのが「エッジ」と言われています。振動板外縁部とフレームまたはエンクロージャーをつなぎ、振動板を支えつつ隙間を埋めるゴム部品…エンジンで言えばピストンリングのようなもの?でしょうか。これに振動=熱が入ると、タイヤ(これも大きな括りではゴム部品)の最初の皮むきと似たような事が起こるらしいです。
    その昔、エッジの素材はウレタンが使われていました。しかしウレタンは「加水分解」によって空気中の水分を吸って経年劣化でボロボロになる(ヘッドフォンのイヤーパッド等で経験ある方もいらっしゃるかも)ため、定期的なエッジ張り替え補修が必要だったようです。それを解決しようとラバーエッジが登場しましたが、最初の頃はよくある話でウレタンより音が悪いと言われていました。技術の進化によりラバーエッジが主流になりましたが、同時にエイジングという要素も大きくなったのではないかと想像しています。
    ※少数ですが、エッジの影響を嫌って「エッジレス(振動板外縁部で直にくっつける)」構造をとるスピーカーもあります。
    ※スタジオモニターや業務用スピーカーでは、ラバーエッジでも張り替え補修は行われているものと想像します。

    長文・駄文失礼いたしました。もう知っている方には申し訳ありません、ただの暇つぶし雑学としてお読みくださいww

  • 駄文などととんでもない!勉強になります!
      
    もうとにかくヒットチャートというものが基本的に崩壊しているのに、いまだそのマボロシにしがみついてEDM一辺倒な周辺状況にうんざりします。や、もちろんEDMにも良い音楽はあるのでしょうけど。
      
    スピーカーユニットのエッジの話、ヘッドフォンのイヤーパッドの話、身体でその変化をしょっちゅう感じております。クルマの劣化もそうですが、毎日毎日、わずかづつの劣化って人間は補正しちゃうんですよねぇ。で、ある日ユニットとかイヤーパッドを交換して驚くわけですが。
      
    一方で、カーオーディオの周波数特性がフラットなら万事解決か?と問われれば、それも違うだろうとは思います。特に昨今、クルマの内装は吸音する素材のものが増えていると感じていますし、「静かなことこそ是」とメーカーも制音調整にやっきになってもいると感じます。そうなるとカーオーディオの基準などもはや何が基準かわからなくて当然だとも思うので、時々はプロの耳や技術を頼ることも有効だなと思う次第です。

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