990S現る!

マツダ ロードスター990Sに試乗する機会を得た。話は急転直下だった。スタジオに籠り、音楽制作用Macの不調を修正せんとあれこれ設定を変えてはMacの再起動を繰り返しているところに、オープンカークラブ仙台のH田さんから唐突な電話が。990Sに乗っているお客さん、ND型購入にあたっていきなり990Sを購入してしまい、マイナーチェンジ前のSとかSスペシャルパッケージの乗り心地は一体どんなものなのか体験してみたいのだという。「心当たりがひとりいますって返事しちゃったんですけど」だとぅ??

そりゃ願ったりかなったり。オレ、990S運転させてもらえるんでしょ??

もうMacの不調にかまっている精神状態ではなくなってしまった。実は先日NC乗りの息子が突然帰省してきて、「やっぱり今からNDを手に入れるなら990Sでしょ。あー、乗ってみてぇええ!」と親子で990S熱を高じていたところ。ぜひ話を取り次いでくださいとお願いし、翌日にはお会いすることになった。今回は2015年式Sスペシャルパッケージ(なーんも手を入れてないド純正モノ)対マイナーチェンジ後の花形モデル990Sの、NDロードスター温故知新比較試乗記をお届けする。

オープンカークラブ仙台さんでの待ち合わせに、濃紺の990Sで現れたのはTさん。訊けばなんと筆者と同い年だった。で、990Sを買ってわざわざマイチェン前の乗り味を確かめたいってんだから、同族の匂いがぷんぷんしますよ、こりゃ(笑)。すでにこのブログのロードスターカテゴリーのエントリーはすべて読破されたとのこと。もはや逃げも隠れもできやしない。大した腕もなければ知識もないということがバレている方が気楽とも言える。向かう先は筆者のホームベース、七北田ダム裏のいつものワインディングである。

地図中の矢印のカーブは、
自車の旋回挙動を分析するのに最適

七北田ダム湖畔公園(という名前だったのか!あそこは)でお互いのロードスターに乗り換える。見慣れたコクピットだが、マツコネ(マツダコネクト)は付いていない。990Sが通常モデルからの軽量化のために省いたパーツは多いが、主に安全装備系電子機器類はMY2015よりも充実している。また一番大きいのはテレスコピック機能が搭載されていることだろう。せっかくなので本気で運転姿勢を調整させていただいたのだが、明らかに姿勢造りの自由度は上がっていた。とは言え自車で調整した運転姿勢で今のところ不満はないのだが。

990Sの電子安全装置のスイッチの数々
軽量化に腐心はしたが、ブレーキのキャパシティは上げている模様
この紺色の幌も……
エアベントの紺色の差し色も、めっちゃ羨ましい
言われてみればロゴも違う
アルミのペダルカバー

筆者先行で走り出す。筆者がもっとも知りたかったことは下記の2点。

1.軽量化を謳っているが、それは体感できるか?
2.キネマティック・ポスチャー・コントロール(KPC)機能は体感できるか?

とある試乗動画には走り出しから軽快感がはっきりわかるとコメントされていたが、ブラインドテストだったら気付けないだろうと思った。結果的に筆者が痛感したのは軽快感ではなく精密感だったのだが、これは後述する。KPCについては、駐車場を出て巡航速度に乗った後の最初のコーナーで早くもはっきりと体感できた。KPCをこのブログで技術解説できるほどの知識がないので、各自調べていただきたい(丸投げ申し訳ない)。ただこのページがわかりやすいと思う。

改良型マツダ・ロードスター試乗インプレ:新制御「KPC(キネマティック・ポスチャー・コントロール)」の効果は体感できるか? 最軽量モデル「990S」の実力は?

990Sでペースを上げつつコーナーに進入していくと、ある段階(上記記事に拠れば0.3G以上の横G検知)であきらかにロールが抑制される。それはシートバックから肩甲骨へギュッと圧がかかることではっきりわかる。LSD搭載のMY2015でも似た効果は生まれているはずだが、それはもっと漸進的に起こり、何よりも車体全体を引き下げる機能は持たない。そもそもND5RCのLSDの効果は非常に甘口であるらしい。公道でLSDの効きを体感することは恐らくあまりないのだろう。筆者ももちろん「お!LSDが仕事してんな!」などという場面に遭遇したことはない。だがKPCはそれこそワインディングの上り下りを「わー、たのしー!」と思える速度ではっきりと体感することができる。で、KPCが機能しているとどうなるかというと、ロールが抑制されることで左右の荷重移動が素早く終わってしまう。効きがはっきりわかるので、荷重移動が唐突に終わってしまう印象を持つ場面すらあった。従って特にコーナー脱出時のアクセルオンをいつもよりも速く実行できる。筆者の感覚では時間的に1割くらい速く踏める。コーナーの途中で姿勢が安定してしまうので、「え?もう踏めるの?」と半信半疑でぐいとAペダルを踏むと、990Sはしっかり路面を喰って(タイヤは195/50/R16、ADVAN Sportだった)前へ出る。

その爽快感たるや!

結局この日は同じコースを3周してKPCを堪能した。根白石方面からダム裏までの逆行では我関せずの低速ワンボックスに頭を押さえつけられたが、30km/hでワインディングを上る体験からも得るものはあった。それが前述した精密感だ。KPCに気を良くしてガンガン踏んでいくと、筆者の運転技術の上限に早々に達してしまうので、どうしたって運転操作に集中することになる。ところが低速で走っていると、運転操作とクルマの動作との関係がよくわかる。それはまるで画像の解像度を上げたような体験だ。MY2015と990Sを比べて「ン?どういうことだ?」と最初に疑問に思ったのはEPS、ハンドルの動きである。重いとか軽いとかの差ではなく、990Sのハンドルの動きは明らかに遊びが少ない。前輪の情報が、こちらもやはり解像度が上がったように手の平に伝わってくる。またTさんの個体のシフトノブの動きが極上で、ゴクッゴクッなんてものじゃなく、するりとゲートを通り抜けていく様が目に浮かぶようなスムースさ。訊けば購入後走行2,000kmですでに2回もミッションオイルを交換されているとのこと。ここ数週間自分のロードスターのシフトが渋くなったように思っていて、ちょうどエンジンオイル交換時期が近いからいっしょに交換するつもりだったのだが、むしろミッションオイル交換の効果の方が楽しみになってしまった。話が逸れたが、ハンドルやシフトの素晴らしい動作と、運転手の癇に障らないKPCの動作を体感すると、990Sを構成している歯車ひとつひとつの精度が高いと思ってしまう。走行距離の違いはもちろんあろうが(筆者の個体は48,000kmを超えており、Tさんの990Sはまだ4,000km)、5-6年も経ってからここまで操作感を研ぎ澄ませてくるマツダの仕事も、素直にすごいと思える。

試乗前日、よくよく考えてみると筆者に良いことはひとつもないんじゃないかと、話を引き受けたことを若干後悔した。Tさんはマイチェン前の純正状態から如何に進化したかを確認でき、改めて990Sの良さを噛みしめることができよう。一方で筆者はそんなポジティブな結論が出るとも思えない。運転して比較して、あの部分もこの部分も990Sの方がいいじゃん!となり、大好きなロードスターが色褪せてしまう可能性大ではないか!あぁあ、こんな話、引き受けなきゃ良かった……とまでは思わなかったが(だって990S、運転してみたいじゃん!)、現在のロードスター熱が若干下がってしまう心配はした。ここまで書いて、負け惜しみのように読めるかもしれないが、実際にはそんなことはなかった。KPCを始めとした大小のマイナーチェンジは、特に旋回時の挙動に小さくない差を生んでいた。しかし旋回挙動が徹頭徹尾自然に推移する「オレのロードスター」の曲がり味もこれはこれで楽しい。990Sの精密な諸挙動は尊敬に値するが、あくまで比較の上で緩い動作がMY2015の決定的な欠点とも思えない。つまりSスペシャルパッケージと990Sはまったく同じ見た目の同族でありながらそれぞれに個性がある、優劣付け難い素晴らしいマイナーチェンジだったのだ。みんな違ってみんないい!異論は認めない(笑)。

これから仲良くしてくださいと、別れ際にTさんは丁寧に挨拶してくださった。Tさんは最近仙台に引っ越してきたばかりで、クルマの話ができるような友人関係もないらしい。Tさんの出現は当ブログの読者諸姉諸兄に朗報である。早々にオフ会にお誘いする必要があるとだけ言っておこう。Tさんこれからもどうぞよろしくお願いいたします。H田さん、仲を取り持っていただいてありがとうございました。

11件のコメント

  • こんばんは。まず、H田さん、凄ーい!まあ、彼ならやるだろうと思うけど、本当にお客のために行動してくれるのが、うれしいですね~。
    990Sは試乗しようと思っても、うちの店にはありません。仙台に1台です。で終わりなのに、ほぼ新車の状態で濃い試乗会が出来て、acatsukiさんは幸せ者ですね。試乗コースは私も好きなコースですが、3往復されるとはさすがです。
    詳細な描写のおかげで、最後の結論が十分納得できます。早くTさんにもお目にかかりたいものです。その時はお店でか?(笑) そのあと、仕事中のH田さんを無理やり巻き込んで、4人で七ツ森周辺とか。 楽しみにしております。

    • 実にラッキーな体験だったと自分も思います。総走行距離数4,000kmなんて、新車ですよ新車!H田さんの、良い意味で腰の軽いあの振る舞いはホントお手本にしたい。ああいう方がいるから仲間の輪が広がったり維持できたりするんですよね。ありがたや。
        
      990S試乗希望に対するその塩対応、ホントにそんな感じなんですか?いやぁ、売れてるクルマを買うのって大変ですねー(笑)。990Sは試乗印象に絞って書きましたが、ホントはもう1本書けそうなくらい色々なことを考えました。あのクルマが我々が生きる現代に日本で製造されているのはものすごい幸運だと思います。買う買わないは別にしてもいいから、クルマのことを俯瞰的に考えたい人は一度乗ってみるべきじゃないかなぁ。マーケティング優先ではなく、「このクルマはこうであるべきだ」という考えの下に専用設計された車重1t以下の内燃機関自然吸気FRの現行車両なんて、この世にロードスターしかないですもん。

      • 恐れ入ります。
        コメントが承認待ちで反映されないです(涙)

  • 興奮が伝わりますね! そう、車で見栄をはりたい人はさておき、どんなグレードでも、本当にその個体の走りが好みにあっていれば満足出来るはずです。私も結局試行錯誤しまくって戻ってきてしまいましたから(汗) しかし、マイチェン前の個体と乗り比べたいって、本当に車好きな方なんですね。acatsukiさんとバッチリウマが合うと思います! 
    素朴な疑問なんですが、今回の試乗記はどのくらいのペースで走らせたんでしょうか?
    いつも思うんですが、雑誌の試乗記とかも、一体どのくらいのペースで走っての試乗記なのかって知りたかったりします(笑)
    ペースが、例えば平均60Km/hと、100Km/hではまるっきり車の挙動も違うと思うので。
    ツーリングなんかにしても、いたって誰も恐怖を感じない気持ちの良いペースのツーリングもあれば、その真逆もあったりします。
    恐怖やスリルを感じはじめるところが、気持ちよさのしきい値だと私は勝手に思っているのですが(汗)
    acatsukiさんのツーリングのペースは、基本どのくらいなんでしょうか?
    野暮な質問ですみません(笑)

    • Tさん、こう、なんというか、趣味人だなぁと思いました。いただいた名刺の肩書きもそうだし、990S買って、実際マイチェンでどれくらい良くなったか自分で運転して確かめたいってのも、クルマを上っ面で捉えていない証拠だと思います。お話しも楽しかったですよ。沼の住人だと思います(笑)。
        
      ところで試乗時の速度……ねぇ(笑)。まぁ文字にして証拠を残したくないので、敢えてぼやかして書きますが、今回は赤点すれすれの数字から「この点数なら両親に叱られないだろう」というあたりの数字まで、ですね。もちろん三桁には届いてません。山道ですし、本文に書いたように、対向車はけっこうな数いたんです。Tさんはまったくコースを知らないので、当然わたしが先行することになりました。となると自然とわたしのリミット速度が試乗リミット速度になってしまうわけで、Tさんにはそこで欲求不満にならなかったか若干心配ではあります。

      >>恐怖やスリルを感じはじめるところが、気持ちよさのしきい値
      まったくそのとおりだと思います。というか、それを知らないでぶっ飛ばす人もいて怖いですよね。怖かったら気持ちよくない。あたりまえのことが時々どっかに行ってしまうのが、自動車運転の怖いところだと思います。

  • 990とacatsuki仕様だと重量差は40キロ位でしょうか?間違いなく差はあると思うのですが、正直軽量化は実感しにくいですよね。例えば4Cは発売当初の日本仕様は、公表1100キロでしたが、途中から1050キロになりました。でも仕様変更のニュースもないし、乗り味が変化したという記事も無いので、やはり分散した4,50キロは実感しにくいのだと思います。個人的には精密感の一因が軽量化から来ているような気がします。しかしKPCはやはり優れものなんですね~!メチャ気になっていました。

    • Sスペシャルパッケージの車検証総重量値が1,120kg。車重値だと1,010kg。990kgがどっちなのかという疑問はありますが、仮に車重値だとしたら差は20kg。それねぇ、わかんないですよ。まぁどこに20kg荷重してるかにもよるかもしれませんが。ちなみにTさん、リチウムバッテリーに替えようかなと言ってました。1kgちょいなんだそうですね。エンジンルーム内の重量バランスが変わるとどうなるのか興味あると言ってました。

      4Cを運転させていただいた時は、軽さよりも堅牢さの方が印象的でした。うわ!硬!みたいな。駐車場の中を30km/hで走ってもそれがわかるんだから、すげえ。恐らく軽さの体感って、そういう全体の動きから察するしかないんじゃないでしょうか。

      KPCはホントにすごいです。本文で触れている精密感と合わせると、速く走ることができるのは間違いないですが、その前に疲れないんです。NDロードスターに乗るようになって疲れなくて驚いているんですが、990Sはさらに疲れなさそう。現地でTさんにもお話ししたんですが、Sスペシャルパッケージはラフなシャツ。990Sはぴったりしたトレーニングウェア。着ていることを忘れる……とまでは言いませんが、車両のあれこれを走っている最中は意識しないってのは速く走るだけじゃなく、疲労にも効くんだなぁと実感しました。

  • H様、先日は私の希望を叶えて頂きとても感謝しております。至福の時間でした。そして詳細なレポートまでアップしてくださり感恩戴徳でございます。
    また何かありましたらお声かけ頂けると幸いです。お仲間様達にお目にかかる事も楽しみにしております。
    そしてこの機会を作って下さったH田様ありがとうございます。

    追記
    沼の住人、素敵な響きですね。沼人目指して精進してまいります。

    • いやいや、もう多分ずぶずぶの沼の人だと思いますが(大笑)!
        
      こちらこそ、大変貴重な体験をさせていただくことができ感激であります。ぜひまたお時間を作っていただき、純正Sスペシャルパッケージの感想を伺ってみたいものです。↓と下のコメントでProfumo姐さんもおっしゃっておりますので

  • いや、ホント、そうなんですよ。
    それぞれのキャラでそれぞれの良さがあるんです。
    アバルト595はそれがすごくわかりやすくて、私にはコンペはtoo muchな感じだったんですよね。あの暴力的な感じ、すごいんですけどね。求めてる感じがちょっと違うかな、って感じで。

    ロールが抑制されると旋回がラクっていうのは、124にパフォーマンスバー入れたときにすごく感じました。こんなにも違うのかと!でも先日acatsukiさんのロドに乗らせていただいて、あのひらひら~って感じはあの足の動きだからこそ感じられるものなんだろうなぁと思います。どっちもいい。どっちがいい、っていうんじゃない気がする。うん。

    MY2015に乗られたTさんの感想をぜひお伺いしてみたいものだ!

    • 考えてみるとABARTHの作り分け技術ってすごいっすよね。500からどんだけバリエーション作るんだよって感じで。で、実際どっちにするか迷うだけの個性を与えてますからねぇ。オレは今から選ぶならCの左ハンドル一択ですわ。あんまりハードなのはいらない感じ。
        
      990Sショックっつーんですか?色々違っていて本当に驚いたなんですが、自分のクルマを改めて見直す契機にもなりました。姐さんおっしゃるように、なんちゅうか、荷重移動と足の動きに微妙な時間差がある感じが、ある意味ほっこりする要素かなと思えるようになりました。今から990Sを買い直すことは現実的じゃないので、うちのヤツを育てていこうと思います。

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