考察・NDロードスターとはなにか#5

NDロードスターを要素ごとに考えるシリーズの5回目。今回はシートについて考えてみる。

NDロードスターのシート

これまでの考察
#1運転環境
#2ハンドル
#3加速
#4FRレイアウト

筆者の2015年式ND5RCはSスペシャルパッケージなので、シート地はファブリックである。レザーか革か?それはオーナーの好みで良いと思う。自動車の起源である馬車まで遡れば、乗客シートは布地で御者は板に革を敷いて座っていたというから、本来ファブリックが上位なのだろうが、現代でそれが逆転しているのはコストゆえだろうか。こと「滑りにくい」という意味でなら、スポーツカーのシート地はファブリックやアルカンタラが最上だと筆者は考える。

様々な記述にあたると、NA、NB、NCと三代に渡る歴代ロードスターの純正シートはあまり評価が良くない。特に筆者はNC RS RHTを1年弱所有していた過去があるので、NCについては「難あり」と断じても良いだろう。何をどうやっても身体にフィットしなかった。

な、懐かしい……

一方NDの純正シートは腰を基準に調整していけば、収まりも良いし、背中を面で支えてもくれ、特に肩甲骨周辺までそのホールド感が維持されていることは重要だ。NC純正シートはそこがダメだった。腰基準で合わせると肩がスカスカし、肩・肩甲骨付近のホールドを基準にすると腰が動いてしまう。ND純正はようやくそこはクリアした。日常生活の移動程度ならまったく問題ない。

そんな風に形状には一定の評価を下して良いと思う。しかし諸調整機能にフォーカスしていくと、まだ満足はできない。端的に言えばノッチの切り方の甘さと可動部分の動きの悪さだ。シートレールに施されたノッチの間隔はもっと細かくても良い。筆者はAペダルを踏む踵の位置と、腰の位置を基準にして背面角度やハンドルのチルト量を決めていくのだが、前後も背面角度も「あと10mm!」がどうしても叶えられない。どうにもしっくりこないので何度も挑戦したのだが、そうすると今度は前後調整も背面角度調整も、その動き出しが渋くてイライラする。あと10mmを微調整したいわけだから、そろりそろりと動かしたい。人間心理とはそういうものだろう。だがレールスライドは動き始めにヨイショと力まねばならず、またリクラインはロック開放レバーを引いてしばらくしないと動き出さない。そして動き出すと今度はとたんにガバッと動いてしまう。素材を奢れとか電動にしろとか言いたいのではない。軽量化に反することなど一切しなくていい。だが精度は上げて欲しい。動き出しの渋さは潤滑剤でもさせば好転するのかもしれないが、ノッチ位置はユーザーにはどうしようもない。

これは助手席側

かつてあるBMW乗りと立ち話をしていて、シートレールのノッチの話になり、国産車のノッチを切る間隔の粗さをその人は指摘していた。「こことここの間にもうワンノッチほしいってことが、国産車の場合よくある」。その会話が交わされた時、その人はF30型3シリーズに乗っていたからシート調整はすでに電動だったであろう。筆者もすでにアルファロメオ MiToに乗っていたから、前後位置調整の「かゆいところに手が届く感」を最大限享受しており、前後位置調整の自由度の高さは輸入車の方が上、というその人の話には大いに得心したものだ。

シート底面の下なんだけど、
わかりにくい画像しか撮影できませんでした

シートのリクラインも前後位置調整も、一度決めたらおいそれと動かすことはない。ロードスターのように趣味性が高いクルマの場合は、おおよそオーナーしか乗らない(運転しない)というケースも多いだろう。だから調整機構動作の少々の渋さに、そんなにヤイヤイ言わなくても……と思う読者もいるかもしれない。しかしロードスターはMiToやアバルトの諸車とは異なり、運転を楽しむという一点突破のために設計製造されたクルマではないか。運転手が運転姿勢作りに苦労するなんてことがあっていいはずがない。夏はTシャツ1枚だが冬にはそれなりに着込まなくてはならない。その差だってバカにならない。特注でフルバケットシートを造ると、そこに苦労すると読んだことがある。上に1枚羽織るだけで違和感をもってしまうのだそうだ。他にも運転時に履く靴のソールの厚さだって無頓着ではいられない。人間の感覚がかくも敏感なことは、筆者は自分ごととして実感することができる。ノッチの感覚にしても可動部分の動き出しの強過ぎる抵抗についても、まだまだ詰められる余地はある。運転好き「しか」運転しないクルマだからこそ、そこはがんばってほしいのだ。

なんだか恨み節がメインになってしまった。NDのシートは形状やクッションに不満はない。ホールド性も日常使いには充分。だが運転姿勢を決めるのに重要な可動部分の動作精度にはまだ向上代がある。暫定解としては社外セミバケットシートあたりへの交換だろうか。シートのホールド性が向上して困ることはないのだから。

8件のコメント

  • さすがacatsukiさんという内容で面白いです! 私なんかはいつも無頓着で、「とりあえず、いいか」的なポジションなんで見習うべきところがあります(笑) これって、リクライニング機構の好みですぐ分かりますよね。細かい位置を調整したい人は、エンコーダー式の無段階、ある程度の調整で満足で、車の中でサクっと横になりたい人は、ノッチありのレバー式。私なんかはすぐ背もたれ倒したい派なのでレバー式が好きなんですが、どうにも私の好みの車はエンコーダー式が多くて困ります(笑) ふと思ったんですが、シートの中に低反発ウレタン入ってたらどうなんでしょうね? 一応身体にはフィットしますよね。でもそれが良かったならば流行っているはずだし、ダメなんでしょうね(笑)

    • MIToに乗るまでは私も無頓着……というか、そもそもクルマごとに運転姿勢を変える必要があるとすら思っていませんでしたから(笑)。「オレは寝そべる姿勢の方が好きなんだよねー」と、どんなクルマでも背面を倒し気味にして座面は最低高。それがデフォルト(笑)!アホでした。そもそもそんな運転姿勢で307SWを運転しても本当の操縦性なんかわかるわけがない。MiToを買ったばかりの頃、あまりの足周りの硬さ(というか、ぎこちなさ)に辟易してたら、技術顧問に「シート位置が合ってないのかもしれませんよ」と言われて、ちょちょっと調整したら夢のように楽になったという経験から、今回のような話に至っています。
        
      エンコーダー式ってのは、ダイヤル式ってことでしょうか。それとも電動+メモリ付きってことでしょうか。確かにちょっと眠いから10分だけ寝ようなんて時はレバー式が便利ですが(他のシチュエイションではむしろレバー式じゃないと話にならない的な)、幸か不幸かロードスターでは寝られるだけのリクライン余地はありませんので(笑)、どっちでも良いとは言えます。でも結果的にダイヤル式の方が絶対良いですね。
        
      低反発ウレタンは、国産の一部の車種には装備されているみたいですよ。具体的な車種名は忘れましたが(ということは軽自動車かな……)、長距離には向かないような気がします。いやーでもわかんないな。どっちがいいのかなぁ。低反発って言っても、様々な硬さがあるみたいですし。イスって奥が深いですね。

      • ごめんなさい、エンコーダー式とはいいませんよねw 職業病が。。。 ダイヤル式です!
        低反発ですが、カークッションはたくさんありますが、シート自体に採用されているのもあるんですね? 知りませんでした。 やっぱり考える人はいるんですね。
        シート以前に、自分は姿勢悪いから、少し長い時間運転してると、なんだかいつのまにか、ケツの位置がずり落ちてしまってるんですよね(汗) よいしょって座り直しながら運転してますw

        • 2020年の夏に1ヶ月少しで極限まで痩せた時は、シートクッション買ってみたんです。なんと言ってもプン太郎のシートに座っているだけでケツが痛くなるという惨状でした。クルマとの一体感が削がれるんで、クッションはホントにイヤだったなぁ。その後体重がみるみる戻ってしまい、今はスタジオのイスになんとなく敷いていますが(笑)。あ、自分もケツ、ズレますよ。信号待ちでよっこいしょって座り直したりして。本当はもう少しシート背面を立て気味にセットした方がいいのかもしれないです。

  • シートは難しいですね~。試乗も含めてアルファ数台経験して思うのは、敢えて緩くしてフィットするポイントを多くしているコンセプトもあるのでは?等とつらつら考えます。あまりタイトなシートだと、万人に合わない可能性が高くなりそうなのと、ロングランは疲れそうなイメージがあります。ロードスターは歴代全てスペースの制約はどうなんでしょう?コストは掛けてると思うのですが…。

    • フィールにこだわってトランスミッションを内製するくらいなのだから、シートも内外どちらで造っているかわかりませんが、それなりにこだわっていると思うんですが……。一方でマツダ言うところの「アフォーダブルな価格」ってやつ。まぁ町乗り程度はできるものを積んでおくから、本気走りする人はあとからお金かけてよ、という話なのかもしれません。あとじゅんすかさんおっしゃるように、タイトに造るとそれはそれでコンプレインが来るような気もしますしね。乗る人の体形を広く想定するのは仕方ないし、ロードスターというニッチ商品がそれなりに売れるためにはむしろ必須の「規格」なのかもしれません。  が!  ノッチの切り方が甘いのはちょっといただけないっす!上のみいさんのコメントで思い至ったのですが、精度の高いダイヤル式にしてくれればリクライン角度の件は解決するのになぁ。

  • こんばんは
    なるほど!確かにndのシートの調整代がもう少し幅があると良いと気付かされました。今度シート外して対処出来るか試してみようと思います(笑)
    運転時の靴のソールの厚さ‥について。
    私は時々着物でndを運転するのですが、流石に草履は厳しいので足袋で操作します。慣れてみると以外に二輪車のフロントブレーキの様な(ex:人差し指、または中指だけで操作)繊細な動きもできます。足裏に直に伝わる車からのインフォメーションも楽しいです。
    私なりのアプローチでコメントしてみました。
    戯言です(笑)

    • 改めて先日はありがとうございました。ソールの厚さもなんですが、ソール内側、つまり足裏と直接触る側の形状も気になると言えば気になりませんか?ソールそのものはランニングシューズほどの厚ささえなければ、踵さえ尖ってなければなんでもいいやと思っていたのですが、1年ぶりに履いた靴のソール内側が、土踏まずの部分に若干余裕があって、平たく言えばブカブカしちゃってペダルとの一体感が少し削がれてしまうことに気がつきました。NDのオルガン式Aペダルはひとまず足裏全体で踏んだ方が一体感が得られやすいのですが、これまで運転してきたクルマのAペダルはどれも吊り下げ式。踏み方から改造しなきゃいけないことにようやく気がついた次第。
        
      足袋ね!それはダイレクトだわ(笑)。いわゆる「ドキン(=土禁)」って揶揄の対象ですが、足袋はありですね!目からウロコ。

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