鬼首・夕景ふたたび

暑い。仙台もご他聞に漏れず暑い。筆者が小学生だった頃、仙台で気温30度に達すればテレビローカルニュースのトップニュースだった。それが今年は連日34度や35度でドピーカン、超晴天である。そう言えば近所のダムの貯水量が軒並み見たこともないほど下がっており、この暑さに水不足など勘弁してくれと秘かに思っている。だが如何にも夏らしい青空と積乱雲ではある。当スタジオの庭木は絶好調に繁っており家の屋根の高さを越す勢い。従って殺人的日光はそれら樹木に大幅に遮られるので、風情とともに室内温度上昇を僅かでも避けられている感はある。19時くらいになればようやく夕方らしい空の色になる。それを毎日毎日見ていてハタと気が付いた。「こないだ思ったように行かなかった鬼首の夕景撮影、今の晴天続きなら思った絵が撮れるのでは?」行くしかない。

鬼首ピンポイントの日没時間を調べることができなかったが、鬼首が属する宮城県大崎地方のこの日の日没時間は18:51だという。鬼首の標高がおおよそ200m、撮影ポイントの目の前にそびえる禿岳は標高1,261mとのこと。まったくのあてずっぽうだが、日没時間の30分前に到着していれば狙った絵面が撮れるのではないか。太陽はすでに山並みの向こうに沈んでおり残照があるばかり、黄色がオレンジに、オレンジから紫に、紫から群青、さらに深い青にグラデーションでもって変化していく空……というのが今回撮影してみたい絵である。もっともそのためには35mm一眼レフカメラに広角レンズが必要であることもうっすら理解しているが、そんなものに手を出した日にはメンバーブレースがどうしたこうしたなどと言っていられないはずなので、今は手持ちのオリンパス E-LP8とkanaパイセン由来のマイクロフォーサーズ規格の単焦点レンズで挑戦する。キャノン、ニコン、オリンパスと撮り比べた中で、オリンパスカメラの発色が一番筆者の好みに合っている。

鬼首到着をざっと18:20と想定し、GoogleMapを参考に所要時間を算出すると余裕を持って到着するなら約2時間というところ。16:10に玄関を出て、ハーフカバーを外したりカメラのかばんを助手席に(暴れないように)積み込んだりしてから出発。NDロードスターの外気温計は36度を表示。この気温ではさすがに愚者である筆者も幌は降ろさない。仙台市泉区北端から鬼首までの、やや通好みな裏道コースをGoogle マイマップで披露する。

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画像はGoogle MyMapへリンクしています

レイヤー1に示す加美郡加美町上多田川(かみぐんかみちょうかみただがわ)までの道のりが断然楽しい。道中牧場などがあり、以前午前中に走っていたら幼稚園の園バスに行き合ったことがある。山の中のライトワインディングロードではあるが立派な生活道路でもある。

レイヤー2に示す上多田川以北の道は、アップダウンは緩やかになるもののもっと道幅が狭く、すれ違いに気を使う箇所もいくつかある。だがほぼ唯一の直線区間で見た西日が差しこむ森の様子が美しく、ロードスターを停めて写真を撮ってみた。

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あれこれ試すうちに大きな羽虫(多分アブ)がわんさか集ってきた。気が散って撮影どころじゃないし、エアコンに頼らざるを得ない車内に入られるとやっかいなので退散。そのまま最後の九十九折り区間を下ると川渡温泉である。さらにR47を順当に鳴子温泉まで北上し、R108に右折していくつもトンネルを抜け鬼首へ至る。到着は18:10頃。写真を撮っても2時間ジャストである。

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賢明なる読者諸姉諸兄はお気付きのことと思うが、写真の撮れ高が大したことないのでここまで敢えて冗長に書いている。いや、いつもか。や、ともかく。鬼首手前の鳴子温泉のあたりですでに山に日は沈んでしまっていた。山際に消えて行く太陽を撮影し損ねた……と一瞬悔やんだものの、夏の陽射し恐るべし、いつもの撮影ポイント周辺はいつまでも明るい。いや恐るべしもなにも平野部では日没時間前であり、立っている場所から東南側を見やればまだまだ鋭い西日が山々を煌々と照らしている。そんな中で月が早くも顔を出していた。

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ブーたれても仕方がない。前回と違って雲が少ないのは好条件ではないか。撮ろう撮ろう、とにかく撮ろう。

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一向に暗くならない。興味が帰路の晩飯に移り始める。おいしいお店がたくさんあって迷うのではない。温泉街ばかりの県境の田舎に20時過ぎても営業しているような食事処が思い浮かばないのである。下手したらコンビニメシになっちゃうよ……と考え始めたらもうダメだ。夕景撮影よりも自分のライブラリーの中から一番満足できる食事処のリファレンスばかりしてしまい、ほどなく撤収を決めた。鬼首にはなんと20分くらいしか居なかった。

走り慣れた帰路を楽しいものにするには、充実した食事イベントが手っ取り早いのだが良い店が思い浮かばない。まず最初に目指したのは鳴子温泉街の中の某食堂である。以前カツ丼を食べた記憶がうっすらある。もう何年前だろう。だがご馳走攻めで有名な鳴子温泉である。呑み屋ならともかく、町中華や洋食を出す店が晩飯時に営業している確率は限りなく低い。JR鳴子温泉駅でトイレを借りて温泉街をざっと見て、営業しているのは小さな居酒屋だけだった。あとは裏道に入れば違ったのかもしれないが、ロードスターを停める場所がない。駅前有料駐車場は営業時間外は無料と化していたが、19時近くになっても気温はまだ30度前後。温泉街をぶらぶら店探しという気温じゃない。

次なる探索ポイントは岩出山町だがこちらも食事処の記憶がほとんどない。パーコー麺で有名ないろは食堂がこの時間営業しているとも思えない(近日閉業予定だそうだ。御無沙汰のファンは急げ)。岩出山町を右手に見つつR47を東へ向かえば、古式ゆかしいドライブインが1-2軒あったはず。あ、川渡温泉のすぐ先におーとりというドライブインもあったな……。カツ丼がうまいらしい(カツ丼ばっかり書いて申し訳ない)。と、その時閃いた。川渡温泉付近のR47とぶつかるK253を花山方面に向かって登って行った先に、ハンバーガー屋が突如オープンしていたではないか。最近仙台近辺ではインディペンデントハンバーガーショップが乱立しており、ハンバーガー大好きな筆者ですら網羅し切れない勢いで増えている。だが言っちゃ悪いがこんな宮城県北の山奥にハンバーガーショップってどういう商機があるというのか……。以前からお店を目視してはいたが、正直なところいつまで営業できるものか半信半疑であった。営業してたらモウケモノのつもりでK253に折れる。もはや周囲は暗くなっており、街灯の本数も目に見えて減って行く。牧場と牧草地が多いこんな街灯もまばらな場所で、19時過ぎにハンバーガーを売っているわけねぇや……と思いつつ走っていたら、すっかり夜になってしまったK253からの脇道に煌々と電飾も眩しい「タンブルウィードバーガーズカフェ」は堂々営業中であった。

お店は明るいがお客のクルマらしいものは1台も見えない。もう閉店作業中だろうか……と恐る恐るドアを開けたらあっけなく「いらっしゃいませー」と迎えられた。営業は20時まで。ラストオーダーに近い時間だった。ラッキー!!

Tumblewheed Burgerscafe

メニューを吟味すると昨今の同系統のお店と同じく、アボカドやオニオンリングを具材として生かしたメニューも見受けられる。だが筆者、この手のお店での最初のオーダーは「ベーコンチーズバーガー」と決めている。理由の説明は省く。それとオレンジジュースを注文。約10分ほど待ってまずはオレンジジュース、そしてバーガーが供された。あっという間に食べてしまったので肝心のハンバーガーの画像がない。申し訳ない。パティのしっかりした味付けも去ることながら、いっしょに挟まっていたレタスがうまい。肉好きの筆者がわざわざ言及してしまうのだからその味推して知るべし。次回オーダーすべきメニューも目処がついた。お店の人たちと二言三言交して退店。良いお店だと思う。牧場地帯にある和牛バーガー専門店として、立地を強みに生かしてがんばってほしい。

くねくね山道たるK253を下り再びR47に乗る。R47は山間の平地を走る国道なので、下りの道行きの窓外の景色は空の比率が高くなる。するとどうだ、眼前には橙色からインディゴ、濃紺へのきれいなグラデーションが広がっているではないか!これだよ!この空を撮りたかったんだよ!!がーん……。残念ながらK253沿いには撮影に適したポイントがなく、歯ぎしりしながら下るしかない。そうか……。この時期この色の空を撮るなら20時近くにならないとダメなのか……。勉強になりました。悟りは悟りとしてあとは一直線に帰るのみ。鬼首からの定番帰路たる宮城県農業試験場経由のコースはこの夜は見送り、R457を馬鹿正直に南下することにする。R47沿いのローソン大崎岩出山店に寄り道してデザート。この時期のデザートと言えばアイスクリーム一択。許せ大腸。ハーゲンダッツの期間限定バー「苺&クリーム」。これがうまい。ローソンの人気のない駐車場、ロードスターの脇に立って周囲の風景を眺めながらむしゃむしゃ。湿った暑い空気がまとわりつくが、ツーリング先での空気を吸うことを筆者は重視している。

あとは本当に脇目も振らずR457で帰宅。王城寺原演習場方面にも立ち寄らなかった。こういうのも久しぶりだが田舎道たるR457は20時も過ぎると交通量が目に見えて減り、走っている車両も1台1台ペースが速いのであまりストレスがない。むしろエアコンでトルクを食われるロードスター1.5L自然吸気エンジンのへたれっぷりがAペダルの反応を鈍らせて、そちらの方がストレスと言えばストレス。でもこの暑さでは仕方ない。約6時間半/168km。鬼首詣はまだまだ続く。

6件のコメント

  • どれも良い写真じゃないの!
    ロードスターの赤が映えるね
    BSの鉄道写真番組の作風をみたいだ

    • 恐縮です。鬼首の風景は横に広いのでファインダーを覗き込むたびに「広角……広角……」とつぶやいております。作例写真的構図かぁ……。少なくとも基本に忠実な構図ではあるわけだ。

  • 全部いい写真ですが、一枚目の写真とってもいい感じですね。

    虻はヤヴァイっす。渓流釣りに行くと、今頃の季節毎年やられるのですが、両足を50カ所くらいやられて医者に行きました。あれは刺すんじゃなくて、口で噛んで血を吸うので、大きく晴れて痒みがいつまでも残ります。

    釣り終えて車に戻ると、白い車がマダラ模様になるくらい虻がたかっている時もあります・・・

    • あのふたつのレンズは自分のカメラ歴の中で現状トップのトピックで、あの明るさや描写力はホントにすごい。手持ちのレンズでやりたくても実現できなかった色味や構図がいきなりできちゃった。あとは腕の問題です。
        
      今年になって耳にしたんですけど、35度超えると蚊も活動できない気温だそうで……。幸い鬼首で蚊に苛まれることはありませんでした。もはやトンボがガンガン飛んでて驚き。

  • こんばんは。k253沿いに、ハンバーガー屋さんがあるなんて、ちょっと信じられないけど、写真があるからねー、信じます。よくつぶれないです。やはり固定客が居て、それで回っているんでしょうか。私もあの辺は走りますが、気づきませんでした。松島のバーガー屋さんに早く行ってみてその後に、でも行きやすさからすると、こっちが先でもいいかな?
    あと、写真に写っている、靄のような煙のようなのが、格好良いです。煙でしたか?
    本当に、2,3年前までは、日が沈めばオープンの天下だったのに、8時近くでももわっと暑いのが、来年からの夏を考えると、怖いくらいです。、

    • 厳密にはK253沿いではなく別れ道に入ってすぐのところですが、少なくともR47側からK253を登っていけば見えますので。ぐたいてきには
        
      北38.74834°, 東140.79963°

      です。美味しかったですよ。呼び水になって松島Harry’s Junctionにも先日行ってきたばかりです(笑)。写真中の霧のような煙のような……は、焚き火の煙だと思います。近くに行って確かめたわけではありませんが。夕暮れに焚き火って風情がありますよね。多分農作業の一環なのだとは思いますが、それでも。

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