代車・プジョー 308(T7型) 盆栽、あるいは壺

既報のとおり家人のシトロエン C3が2度目の車検を終えたわけだが、1週間の入庫中に宛てがわれた代車がプジョー 308(T7型)だった。実際運転してみると色々と思うところはあったが、もはや10年以上前のモデルで、かつ11万kmも走った個体の劣化部分を指摘しても誰も幸せにならないので、そういうのはやめる。ただ2010年前後のプジョー車の走行キャラクターについて、今さら合点がいくこともあったので、そのことを書いてみようと思う。

T7型がデビューしたのは2007年のようで、2009年まで同社の307SWに乗っていた筆者としては7から8へのフルモデルチェンジであり、まぶしく見送るのみであった(笑)。もちろんディーラーのショールームで何度もガン見したが、内装の質感グレードアップは著しかった。ただし筆者の記憶が正しければプラットフォームは307からのキャリーオーバー、中身はほとんどそのままだったはず。要はオーナーの目に入る部分(主に内装)を格上げし、307でかなわなかったVW ゴルフ追撃の第2の刺客であったのだろう。筆者の目には充分挑戦者の資格ありと映っていたが、センターコンソールの傾斜がきつくて当時の社外ナビのセンサーが誤作動するとかで、デビュー当時はディーラーオプションですらナビがなく、販売最前線の営業さんたちは苦労されているようだった。もちろん今回の個体にもナビは非搭載である。

さて2024年の今改めて運転してみてわかるのは、全体的な挙動が緩慢だということだ。緩慢な挙動自体がダメというわけではない。むしろわざわざ2010年代のプジョー車に乗る意味になり得るとも言える。「緩慢」と書きたくなる理由は大きくふたつあって、ひとつは加速、もうひとつは旋回である。そのどちらもが現役C3と比べるととてもスローで、面食らうくらいである。加速に関しては1.6Lガソリンエンジンに(彼の悪名高き)トルコンATのAL4という組み合わせ、しかも車重が約1.4tもあるのだからとにかく重く感じて仕方がない。遅いなぁと感じてAペダルを踏み増しても、加速感よりもゴアー!という耳障りなエンジン音ばかりが目立って、そうそう踏む気にもならない。ただロックトゥロック値が大きいステアリングホイールを操作する旋回動作と組み合わさると、この加速の鈍重さも308のキャラクターとして許容できると思った。要は運転手がアジャストしてクルマのスイートスポットを見つけ出す楽しみである。ある種の謎解きと同じようなもので楽しい。

ただブレーキだけはかなりデタラメだ。効かないのではなく制動力ピークへ達する時間が非常に速くてはじめは戸惑ってしまう。ペダル踏み込み代が少なく、乱暴に言えばカックンブレーキである。この制動動作が前述の加速・旋回動作とちぐはぐで台無しなのだ。まぁこれもブレーキサーボマスターを車体左側に残したままという、プジョーお馴染の雑なRHD化の影響が大きいのだろう。車体右側の運転席Bペダルからリンクを介して踏力を車体左側へ伝えるわけで、そんな弾力込みの夾雑物を介してリニアなペダルフィールが得られるわけがない。LHDモデルのプジョー車の運転経験があればもっと断定的に書けるのだが、当時はLHD童貞で、後年308GTi250 by PEUGEOT SPORT(T9型)を試乗することになるのだが、その時だって車体把握にあっぷあっぷでペダルフィールのことなど覚えていない。情けなし。

1968年式の筆者がプジョーという名前から連想するのは、猫足とかホットハッチとか、つまりは動的性能の優秀が先立つキャラクターイメージである。だからこそ今回の308の挙動全体のスローさに違和感を持つことになった。だが約1.4tのボディに140馬力の1.6直4ターボ過給エンジン、増してや悪夢のAL4との組み合わせを理屈で理解すれば、キビキビ走行など期待する方が間違いであることがすぐにわかる。プジョーだってハナからそんな元気キャラは狙わずに、用意された素材を無理のない味付けで仕上げたのがT7型308だと言える。当時のゴルフ(VからVIというあたり)と比較して充分オルタナティブとして成立してはいると思うが、それ故にあとはオーナーが308の乗り味を理解&愛好できるかどうかの問題だと思う。

現役C3に慣れてしまった筆者も家人にとって、今回の308は盆栽や骨董品の壺と同じである。非日常として一瞬楽しむことはできる。だが毎日の足とするには、例えまっさらの新車だったとしても少々物足りないというのが正直なところだ。「穏やか」とはとても言えない「鈍重」な加速がその物足りなさの最大にして唯一の原因である。やはり自動車の運転印象に軽さは効くのだなぁ。308、ありがとう。

※本エントリーの画像はすべてネットから拾ってきました。

4件のコメント

  • もう何度もコメントしていますが、我が家の207も同じエンジン、トランスミッションですが、あのATだけで相当印象悪いです。他は文句無いどころか足回りなんか感動ものなのに…。

    • 運転した第一印象、「え?なんだこれ、ぜんぜん付いてきてくれない!」だったのが、「あ、このリズムでハンドル回せばいいのか!」がわかったら、すべてが一直線につながったように運転しやすくなりました。これが万人の感想ではないかもしれませんが、キャラを理解するのに一定のハードルがあって、乗り越えたことが直感で分かるのが欧州車の操縦性の良いところじゃないかと思うんです。少なくとも20代の頃は、機械が人間に合わせるべきだという間違った考えの下クルマを運転しており、結果そのクルマのキャラを把握できず仕舞いのまま乗り換え……を繰り返してきたように思います。阿呆でした。で、そのことを弁えてなお、AL4はやっぱりダメですね(笑)。

  • 同じ時期に2代目のシトロエンC3を代車としてドライブしておりました。AL4も最末期となるとシフトショックも小さく、時速60㎞近くにならないと4速にシフトアップしない点を除けば、それほど悪くは無いと思いました。やっぱりBセグとCセグでは車重がかなり違いますから(お相撲さん一人分)、308では鈍重な印象でしょうね。なお、新車登録10年後の劣化具合でいくと、代車のホンダのFitはPSA軍団のBセグ車よりもヤレ具合がひどい気がします(だからホンダ車が嫌い)。
    なお、イデアルさんは同じ敷地でも店舗毎に抱えている代車が違うそうです。今度500Xがどこかで導入されるみたいですよ。

    • >>時速60㎞近くにならないと4速にシフトアップしない点を除けば、それほど悪くは無いと思いました。
      いやいやいやいや、その感覚こそが世間様とのギャップ!一般的には単なるヘイトの対象です。そもそも開発元が「失敗作だから売りたくない」って言ったんですからねぇ。ま、確かにBセグの車重1.1tとか1.2tクラスなら印象は微増するかもしれませんが。カングー陣営からあまりその話が聞こえてこないのは車重がいくらかでも軽いからですかね。
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      ホンダ車の劣化具合については同感ですが、初代Fitはあぁ、あと5万km距離が若ければもっと普通だったろうに……と擁護できるくらいちゃんとしたキャラクターだったと思います。ホンダは軽の最上級車かバカみたいに速いモデル以外、つまり普通の人が普通に買うクルマの挙動はとっ散らかっていて残念です。新ステップワゴンがとうとう普通のクルマになったと評論家からYouTuberまで褒めていて、ちょっと興味があります。こちらなど。 https://youtu.be/La-GYS833EQ?si=SceQRKdJON2uC7Xa
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      ところでなぜ代車??いよいよ時が来たのですね?

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