NDロードスターの加速と減速でうっとりした話

ND and C3

筆者がロードスターに求めるものはいくつかあったが、突き詰めれば「オープンエアドライビング」と「旋回挙動の学び」のふたつと言える。このエントリーでそのふたつについて書こうと思ったが、後者の旋回挙動云々については、いまだ書けるほどの体験を積んでいない。そこで、運転してみての第一報、「オープンエアドライビング」と「加速・減速」について書こうと思う。

納車の瞬間から幌を開けた状態で走り出したのだが、幌を開けた/閉めた状態の落差の少なさに驚いている。オープン時のボディの意外な堅牢さ、クローズ時の素直な路面ショックの抜け方。これから走行距離を重ねて行けば、もっと小さな変化にも気付けるのかもしれないが、現在は開けたから、閉めたからと言って、勘に障ることはほぼない。

加速と減速の様子についての方が驚きがあった。加速することについて、そんなバカなと思ったのは、飛ばす気にならないことだ。法定速度を超える前にもう気持ち良い。これにはいくつかの要因があって、筆者特有の事情として、ターボでドカンと段付き加速の日常から、最低限の馬力でまったりこっくりじわりとトルクが盛り上がる真逆キャラへの乗り換えが、まず何よりも大きいはず。それに加えてAペダルの反力が強めなことも、その印象を後押ししているはず。

こう書くとNDを「自然体だが加速には見るべきところがないクルマ」と思われる読者もいるかもしれない。ところが違うのだ。3,000rpm以下でもAペダルを通じてのエンジン動作の描写は濃い上に、加速中の前輪の情報も濃厚なのだ。そしてショートストロークのシフト(6MT)が節度感たっぷりでシフトチェンジのひとつひとつが嬉しい。これらの要因が加速動作そのものをすごく豊かにしてくれる。ハンドルからの情報が多いのは、前輪が駆動力から解放されているFRならではでもあろう。加速・減速を問わず、ハンドルの手応えは一定でノイズがなく、実に好ましい反力を返してくる。NDのパワーステアリングは電子制御らしいが、少なくとも街乗りで不満を覚えることはない。FF歴20年以上の筆者としては、トルクステアから解放されただけでも嬉しいポイント。しかし白眉はやはりシフトノブの動きだ。NDベースにあれこれチューニングされたアバルト 124スパイダーが、かつて日本に導入された頃に試乗したことがある。マツダ内製そのままの6MTのあまりのゲートの渋さに驚いた。せっかくのショートストロークが台無しだと思った。だが今回曉スタジオが迎えた個体は、すでに42,000km近くを後にしており、シフトも良い具合にくたびれて、かちりかちりと程よい抵抗感となっていた。NDロードスターを購入して良かった点を真っ先に挙げるとしたら、この6MTかもしれない。それは記憶の中のベストと言い切れるホンダ シビックTYPE Rの6MTと同着一位と言っても良い。

制動描写も美しい。制動という物理現象について、描写とか美しいなんて表現は使うべきではないのかもしれないが、それくらい感銘を受けた。それはどこかにピークがあるのではなく、常に漸進的に、リニアに効く。マツダは3の代替わりでブレーキを一新し、その効き具合はkanaパイセンの個体を2度も試乗させていただき堪能した。ロードスターの新バリエーション990Sにも同じ考え方でチューニングしたブレーキを搭載したという。曉スタジオの個体はND発表年の2015年製であり、おそらくその新機軸ブレーキは搭載していないはず。にも関わらずこのリニアさ。踏力と制動力の真っ正直な関係は信頼できるし、単純に制動が楽しい。

これからこのロードスターを教材にして、「自動車の旋回」というものをじっくり味わい学ぼうと思っている。ところが履いているタイヤ、ダンロップ ディレツィアZIIIは、グリップ優先のかなり剛直な性格らしく、それはお尻で感じるリアからの路面入力でイヤでもわかってしまう。妙に直進が安定しているのもタイヤが遠因だと思われる。もう少し動き出しが滑らかなタイヤが良い。きっとプン太郎に履かせていたトーヨー プロクセススポーツでもまだ硬いだろう。オープンエアのライトウェイトグランドツアラーとしてならこれで正解かもしれないが……。ちなみにファーストツーリングで宮城県北・伊豆沼からの帰り道、E4東北自動車道の築館IC< >古川IC間を走ってみたのだが、全然楽しくなくて驚いた(笑)。1.5リットルエンジン/1.1トンという条件では三桁スピードは負荷が高く、巡航速度としての100km/hを「意図的に維持する」感じになる。長い緩い上り坂で速度を落とすアホを回避するために追越し車線に出ても、すぐに走行車線に戻りたくなってしまう。反力の強さに加え、オルガン式Aペダルにする必要があったのか?と疑問に思ってしまう一幕ではあった。ところがこのAペダルとBペダルの距離といい段差といい、なんの苦もなくヒールアンドトゥができてしまう。このことに気がつくと、オルガン式万歳となるのだが……。あ、もちろんヒール・トゥをバリバリにキメながら峠道を登ったり降りたりしたわけではないですよ?足を当ててみたらドンピシャじゃん!と気付いただけでして……。

情報たっぷりのステアリング。リニアリティにあふれたブレーキ。ヒール・トゥをしてくれと言わんばかりのペダル配置など、なるほど、舞台装置としては完璧じゃねーかと感心した。リア優性を土台として安全志向の濃い旋回挙動だったFFベースの特装車両アバルト プントエヴォ。あれでなければ味わえない乗り味という意味では、FF歴の締めくくりにふさわしい1台だった。しかし今や筆者の関心は前後荷重移動とか、ヨー運動の感知とか、それらを体感・駆使した旋回挙動の体得にある。ロードスターオーナーとなった今、しみじみと考える。2022年にプン太郎の維持を諦めた筆者が乗り換えるのは、このND5RCロードスターしかなかったのだ。

12件のコメント

  • 歴代ロードスターは多分「スポーティー」レベルのタイヤが一番楽しいのでしょうが、今各メーカーのラインアップで、そのポジションてどんなブランドなんでしょう?最近不勉強でよくわからないんですが、ダンロップだとZ101?次期タイヤに敢えてパイロットスポーツ5とか、ネオバとか他社のZⅢと同クラスを装着するとメーカーの姿勢の違いも分かりそうで面白い、と思います。まあ言うだけならタダなんで言いたい放題です…。ロードスターでの旋回の探究は車に誤魔化しがない分、果てしなく奥深そうですね。もし正解に近づいたら「車の運転」という行為の一つのゴールだと思います。

    • そうなんです!まさに奥が深い!クルマが素直っつーか、素丸出し過ぎて何をやっても即座に結果に跳ね返ってきそうで、どこからどう手を付けるか悩みます。タイヤは敢えてのピレリ P7とか、高性能を売りにしてない中庸なブツにしてみようかなとか思ってますが、トーヨーがあまりにも素晴らしかったので、一段下げてプロクセスTR1じゃどうかなとか。
        
      それはそれとして、195/50/R16、安くて素晴らしい(笑)!

  • 花粉症の身にはオープンエアがただただ羨ましい限りです。
    10年前には気にせず乗れてたのになぁ。
    MTの話ですが、NDと124スパイダーは搭載するMTが異なってたように記憶してます。
    NDのは新規の専用MTだけど、124のは1.4ℓマルチエアを積んだためにスペース的な問題でソレが搭載できずNCのMTを流用せざるを得なかったとかなんとか。

    • な!本当ですか!?でも記憶の中にあるNCと124のシフトゲートの感覚は確かにそっくり……。いやぁ、だとしたらNDのMT、よけいに得した気分です(笑)。

    • さすがヴェスぺさま、そのとおりです。
      アバルト124スパイダーにはNCのミッションが使われてます。私が聞いたのはNDのミッションではパワー的に耐えられないとか?まぁ何が原因だか知らんですが(笑)、トランスミッションが違うのは事実です。やっぱりシフトフィールは違うのですね。乗ってみたい~!
      あと、どうでもいいけど、サイドマーカーは124とNDは一緒で、RX-8からの流用らしいですよ(笑)

      • NCとNDのシフトノブの感触の違い、映像で言えばHDとFullHDの違いみたいなもんで、ABテストをすれば確かに違いはあるものの、どちらも観賞には支障ないに等しく。いずれにしても、ロードスターのMTは国内屈指のMTだと信じます。ヤマベの兄ぃが導入し終ったはずの某国産Bセグメント車のメーカーコンプリート版、あれのシフトはどうなんでしょうか。気になるところです。
          
        NC/124のMTに話は戻りますが、受け止められるトルク限界、どっちがどうなのか調べてみたっす。
          
        NCロド RS RHT 6MT 19.3kg・m(189N・m)/5000rpm
        アバルト124、6MT 25.5kg・m(250N・m)/2500rpm
        参考
        NDロド 15.5kg・m(152N・m)/4500rpm ←マツダ公式サイトより2022年値
          
        おほっ。確かに最大値はけっこうマルチエア+ターボの方があるんですね。スペースの都合なのか、許容量の違いなのか、どっちなんだろ。

  • 「124になぜ北米向けNDの2ℓ用MTを使わなかったのか」的なことを書いてた記事を何処かで読んだ覚えがあるけれど、その理由までは書かれてなかったような…。スペース?容量?なんなんでしょうね?

    四国ロドスタクラブに所属してた頃に、ロドスタのMTで評判が悪かったのはNBに搭載されたアイシン製の6速MTだと聞いたことがあります。フィーリングの良いマツダ内製の5速MTに載せ替える方も少なくなかったらしいですよ。
    このMTたしか後にアルテッツァにも流用されたらしいのですが、スポーツ走行に適さない容量の低いMTだったようで『ガラスミッション』って綽名が付いてると整備士の友人から教えてもらったことがあります。

    • そうか、北米向けは2リットルモデルがあるんですもんね。なんでかなぁ。
        
      ガラスミッション(笑)。やっぱりトヨタは「余剰」を憎んでいるんですね!AE100系カローラに乗っていた頃、TRDのクイックシフト入れてました。あれも悪くなかったなぁ。今思うと単にショートなだけで味わいは無かったけど(笑)。味わいは余剰とともに生まれるものなのでしょうか(遠い目)。

  • 「法定速度を超える前にもう気持ち良い。」
    これは、ユーノス・ロードスターの初期型でも同じで、とにかく速く走らなくても、ただ楽しかった。20代半ばから後半にかけての時期だったのに、ですよ。

    NAのシフトフィールは最高でした。
    いわゆる手首の動きでコクコクってやつ。
    ロードスターとMiToの間は3代のLEGACY(AT)だったもので、NAの良いイメージしかなかったものでMiToのシフトフィールにはがっかりしました。でも、アルファ・ロメオのシフトはああいう少し曖昧なものだと後で知って、そういう味付けなら仕方ない、と思ったものです。
    そういえば、セリカXXのシフトフィールは曖昧でした。

    • NCの時も思ったはずなんですけど、改めてNDに乗り出してみて、「速度じゃないんだ!」と思いました。あれは複数の理由があると思うんですが、乗っている時に冷静に考えられません、まだ(笑)。「20代半ばから後半にかけての時期だったのに」とは、どんだけやんちゃな20代だったんすか(笑)。
        
      アルファのシフトが曖昧で許されたのは専用設計時代のことじゃないでしょうか。MiToの場合は明らかに中の下のシフトをフィアットに「それで作っとけ」と渡された結果じゃないかと。NCと8輪体制だったとき、もっとも落差を感じたのが目線とシフトでした。NCから乗り換えると、プントエヴォはバスを運転しているみたいでした(笑)。エンジンの回転落ち速度とか諸々の動作があの実用一辺倒のシフトと協調されているので、慣れればあれでも満足できましたけどねぇ。

  • 今後はハンドルネームをフェードアウト命から、みい、に改めます、よろしくお願いします!
    皆さんの深い話には、未熟者なので学が無くついていけませんが(汗)、ともあれ、acatsukiさんが楽しいと思えるクルマに出会えて本当に良かったです。
    なんだかんだ言ってもコレに尽きると思います! たのしんでくださいね!

    Profumoさんの、サイドマーカー流用の話ですが、エスプリに乗っていた時、テールランプがトレノの流用と聞いた時はショックでした(笑)
    まあそれ以上に、バルクヘッドなど、ふんだんに「木」を使われていたのにはさらに驚きでしたが💦

    そういえば、最近の695のesseesseのシフトを触る機会があったのですが、超気持ちよかったです。私の乗っていた素595とは雲泥の差。コレは操ってて楽しいだろうなあと思いました。

    • ありがとうございます。今は乗るたびに新鮮で、乗りたくて乗りたくて仕方ない状態(笑)。こういうのも久しぶりです。オッサンになってもワクワクできるのって素晴らしい。
        
      695……。走ってるのは良く見かけますが乗ったことも座ったこともないことに、コメントを読んで思い至りました。特別気持ち良いのは695だからなのかesseesseキットのオプションなのか……。
        
      ところでエスプリの木問題、キョーレツですね!英国車の木材使用のセンスは凄く良いと読んだことがありますが、バルクヘッドに、か。

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