試乗記 ルノー ルーテシア2世代 濃縮還元ルノー味

ババーン

既述のとおり、年末に宇都宮で遊んだ際に、2台のルノー ルーテシアに試乗する機会を得た。1台はしまの助さんのルーテシアR.S.。これは3代目モデルのルノースポールバージョンで、フィアットに対するアバルト各車のような位置づけ。もう一台はZEN。このグレードのみマニュアルトランスミッション設定があり、それゆえにA.Sudさんに選ばれた。世代は異なるが、基準車とコンプリートカーを同時に試乗できたわけで、その意味でも貴重な機会だった。そこで同日に2台を運転できた僥倖の意味も含め、印象を並記してみようと思う。実はそうならざるを得ないのが実情でもあるのだ。

ルノー ルーテシアR.S.
あ、ちょうど後ろに
しまの助さん(L)とA.Sudさん(R)が
写ってるじゃん!

ルノー ルーテシアR.S.(MY2009?2010?)
総走行距離 確認し忘れ
形式 ABA-RF4C
原動機の形式 F4
トランスミッション 6MT
排気量 1.998L(無鉛プレミアムガソリン)
車両総重量1,240kg
全長 4,020mm
全幅 1,770mm
全高 1,485mm

ルノー ルーテシア

ルーテシアZEN(MY2015)
総走行距離 確認し忘れ
形式 ABA-RH4B
原動機の形式 H4B
トランスミッション 5MT
排気量 0.897L(無鉛プレミアムガソリン)
車両総重量1,130kg
全長 4,095mm
全幅 1,750mm
全高 1,445mm

※上記データはグーネットのウェブカタログデータをそのまま掲載している。さらに詳しい数値はこちらからどうぞ。

運転環境■
どちらもRHDモデル。多少の差異はあると思うが、ペダルオフセットが不可避に存在する。ハンドルやメーターの視認性と合わせれば、短時間の試乗で気にするレベルではない。長距離や攻めて走る時にどういう影響があるかは探りかねた。R.S.は6MT、ZENは5MT。シフトノブの動きは特筆する精緻さではない。トラベルも普通ならゲートや終端のケジメ感がくっきりしているわけでもない。アルファロメオ MiToも、アバルト プントエヴォも、日産 マーチ12SRもそうだった。実用車のど真ん中たるZENはともかく、「走り特化モデル」と言えども、実用車ベースのギアとシフトノブは最後の最後までチューニングの対象にはならないらしい(例外はホンダ シビックタイプR)。

シートの座り心地もまた両車大きな違いはなく、R.S.はさすがにセミバケット風にサポートが強めで嬉しいが、すると逆に「大きな違いはなく」と思わせる基準車ZENのシートの素養の高さにも気付く。R.S.は後部座席にも座る機会があったが、座面長が短いことを除けば、シート後傾角、膝前や足下のゆとり、前席越しの眺めなど、ファミリーカー的な用途にもまったく不足がない。

■走ってみる■
どちらも筆者の記憶にあまりないタイプの盤石感。その正体はリアの足周りに余裕があることではないかと想像する。前輪の仕事に無理がないのは、おそらく必要以上にリアが剛直ではなく、素直な性格だからだろう。ステアリング操作に対して素早くかつ滑らかにリアにスリップアングルが付く。その点MiToもプントエヴォも、直進と旋回に明らかな「場面転換」的な演出があった。直進の盤石さと旋回の鮮やかさがきっちり切り替わる。ところがルーテシアは直進にも旋回にも余計な演出はされておらず、特に旋回動作に入る瞬間の、直進からハンドルを切り始めるシーケンスの連続性にはうっとりする。「あ!自然な旋回初期動作ってこういうことだったんか!」と教えられる。そういう共通動作がまずあって、R.S.ではそれがもっと俊敏に、かつ余計な共振が起こらずに進行する。加えてAペダルのチューニングも鮮烈な方向で為されているので、体感的に旋回動作への移行が素早い印象になる。

と、文字にしていけばそういうことなのだが、これは楽しいよ。自由自在という言葉が相応しい。R.S.とZENは世代も違うし与えられた性格も違うのだが、この直進>旋回>直進の移行中の挙動がほとんど同じ。ただその現象が立ち上がり収束するまでの時間が違うだけである。某T社の商品はモデルごとの最適化こそが正義みたいなものになっているが、ルノーは確信犯で「だってルノーだよ?ルーテシアだよ?役割はそうそう変わらないじゃない?」という前提でチューニングしているに違いない。世代を超えたその一貫性こそが、最終的にはブランドの特色へ、信頼感へとなっていくのではないか。今回の2台の印象記を並記する形にしたのはそれが理由である。そして筆者の場合、ルーテシアのような「主張しない高次元バランス」に気付くには、その前に演出が派手なMiToやプントエヴォを体験しておく必要があった。水道水を普段飲んでいるからこそ井戸水の鮮烈さに驚くような、清濁の見分けがつかないとルーテシアの挙動の凄さに気付きにくいという側面はあるかもしれない。

■個体ごとの見所■
しまの助さんのR.S.はマフラーがアクラポヴィッチに換装されたばかり。こいつがやばい。「4,000rpmを超えるとふたつ目の吸気フラップが開くんです」とオーナー氏は口元穏やか言うが、それ、穏やかに言う内容じゃありませんから。そんじゃあってんでわざと回してみるのだが、別に4,000まで上げなくても、3,000の少し下くらいからもうゴキゲンな音なわけですよ。もちろん4,000より上まで回してみたが、吸気フラップ云々の差異はよくわからなかった……。それよりも自然吸気エンジンならではのリニアな回転上昇と加速感の盛り上がりのシンクロ具合の方がゾクゾク来る。しまの助さんはメガーヌR.S.Sr.3のオーナーでもある。あまりにもメガーヌが好きすぎて、過走行になる前の足グルマとしてルーテシアを導入したとのことだが、自然吸気エンジンが面白くて積極的にルーテシアに乗る日々だそうだ。わかるー。

A.Sudさんはオーディオにも詳しく、筆者試乗の後に、ZENの純正オーディオ音質チェックのためだけに同乗試乗に誘ってくださった。EQはすべてフラット、ラウドネスはオフ。前後左右のバランスもセンターにした上で00年代以降のロック系を中心に聴かせてくださった。エンジン音や走行騒音にマスキングされてこそのカーオーディオと理解されているので、ちゃんと走りながらの試聴である。わかってる人の配慮は心憎いねぇ。音源は主に00年代以降のロック系音楽だが筆者がよく知っている音源まで用意してくださっていた。ホスピタリティの人である。で、ルーテシア純正オーディオの音質だが、やはり流行の低音域と高音域だけを残して中音域を敢えて削っている。今回再生した曲群はそもそもそういう音質的傾向を持っていたので、なおさらその印象は増す。ZENの世代(Sr.4)になってドアスピーカー径は165mmに格上げされ、しかもユニットはフランスのメジャーオーディオブランド「フォーカル」だという。ご記憶の方もいるかもしれないが、筆者はMiTo、プントエヴォのドアスピーカーをフォーカルのコアキシャルスピーカーに換装した過去の持ち主。一時期は音楽制作用モニタースピーカーにフォーカルを導入しようと検討もしていたほどの「贔屓筋」だが、はっきり言って筆者の知るフォーカルの音質キャラクターではなかった。スピーカー周りをよくよく見れば、ドア内張造形そのものでバスレフ方式(スピーカー筐体の形式のひとつ)を実現する懲り様なのに、だ。ヘッドユニット側では圧縮音源しか再生が許されておらず、その意味では見切りが散見はされるものの、ZENの純正オーディオ音質はルノーが狙ったものではあるのだろう。フラット音質を好む筆者なら、純正ヘッドユニットとスピーカーの間にDSPを咬ませて、凹んだ中音域を整えて……と考えてしまうところだが、A.Sudさんの一言で目からウロコがぼろぼろ落ちることになった。助手席で試聴の間、筆者はA.Sudさん設定の音量からやや上げて聴かせていただいた。上限性能を知るための常道であり、ここまでの印象記はその上でのものだ。終了間際にA.Sudさん、意図的な音質調整が為されていることは承知の上で、実は最適な音量があるんです、と。改めて最初の音量に戻した瞬間、運転席との会話が楽になったのだ。前述したようにZEN純正オーディオの音質は中音域に凹みがあるが、これは音楽で言えばギターや男性ボーカルの中心周波数である。当然それは生の人間の声にも当てはまる。つまり「聴きながら会話するのにちょうど良い音質」に作られているのだ。基本的に筆者はこれまで、運転手ひとりで聴く前提で音質を整えようとしてきた。だがこういう調整方針もあるのか、と非常に驚いた。めちゃくちゃ勉強になりました。

■強引なまとめ・またもや実用車の話■
ルノー ルーテシアは国産車に置き換えればトヨタ ヤリスや日産 ノート、ホンダ フィットに相当するモデルだろう。いわゆる「庶民の足」というやつである。日本では軽自動車がその役割を担うようになってしまったが、自動車メーカーの屋台骨を支える車種という役割は同じだ。コストと売価のせめぎ合いが一段と厳しいレンジでもあろう。ノートはハイブリッド化するという飛び道具に頼っているので毛色が異なるが、ヤリスもフィットも自社のクルマ造りの特色が濃く出ている。ルノーに於けるルーテシア(少なくともSr.3,4)は、やはり「ルノーらしさ」が直球ど真ん中で味わえるモデルだった。直進>旋回>直進の推移がひたすら滑らかで、さりげないが絶妙な衝撃緩衝。実用車としてこれぞ理想!であるがゆえに、「なんか……、普通ですね……」と思われてしまうという側面があるだろう。日本国内の自動車好きの中の、さらに輸入車に食指を動かす層はもっと分かりやすい刺激性だったり機械としての精緻性みたいなものをまずは求めてしまう。筆者がそうである。しかし自動車、取り分け実用車の善し悪しを考えるなら、ルーテシアの動作・挙動こそが最低ノルマであり、キャラクター付けのスタート地点なのだ。

とは言うものの、どんな自動車メーカーでもそんなことは重々承知の上での現ラインナップなのだろう。ゴーンにかき回されて一時期の生彩を失いつつあるというルノーだが、少なくともルーテシアSr.3、4には「ルノーらしさ」という旨味がぎっしり詰まっていると断言できる。しまの助さん、A.Sudさん、ありがとうございました。

8件のコメント

  • こんにちは。参加できなかったけど中身の濃いオフ会だったのですね。A.Sudさんの、聴きながら会話するのにちょうど良い音質、というお話は凄く驚きました。深い!私は運転するとき余り音楽を聴きませんが、家人と乗る時は確かにラジオを聞いたり、USBを使ったりして聴きながら運転することが多いです。その時にちょうど良いように、というのは卓見ですね。国産メーカーでここまで考えているメーカーがあるのでしょうか。オーディオといえば、。○○のを付けました、というのが当たり前ですが、それが本当に正しいのか考えさせられますね。やはりこの仲間たちは凄い人たちが揃っている事を再確認しました。

    • しかもストレス無しに音楽を聴ける状態と、会話に支障のない状態がちょうど良くバランスする音量を見切るってのがね、すごいんですよ、A.Sudさん。とにかくカーオーディオチューニングのまったく別方向のアプローチを知りました。改めてそういう耳でC3の音質も確かめてみようと思います。

  • ミトの挙動の鮮やかさは以前にもコメントしましたが、動きの変化の切り替わりがはっきりしてる、と捉えると自分は納得です。ルーテシアRSは千葉でちょーななと一緒に試乗させてもらったのですが、滅茶苦茶欲しがってました。個人的には操作と挙動のシンクロ具合が「血湧き肉躍る」です。アクラポビッチがマッチするのも納得です。ZENは本当に通勤に使いたいです!一言でいうと「足るを知る」といったところでしょうか。炊きたてご飯と焼きたてのアジの開き食べてる感じです。助手席に乗った感覚だけでも職場が片道50キロでも良いと思わせます。総じて仏車は基礎体力が高い!

    • MiToの「よっしゃ曲がるぞ!→よっしゃ曲がった!」っていう味付けができるアルファもすげえってのがあるんです。その上でルーテシアのようなクルマもないと困るって感じですね。
        
      それにしても「炊きたてご飯と焼きたてのアジの開き」ってのはまったくそのとおり。毎日食べてると舌が肥えちゃうやつ(笑)。オレも毎日乗ってみたい!となってしまい、実はさっきまでメガーヌエステートLHD/6MTの中古車探してました(笑)。

  • 試乗記ありがとうございます。
    このクルマの気に入っているところは全てがちょうどいいところですかね。大きさ、積載性、運動性能、排気量そして目立たない(笑)
    手に収まり操って楽しめるなかなかいい車です!唯一少し物足りなかった音も今回補完できたのでこれから増々楽しんでいこうと思います!
    オーディオはまったく門外漢ですがあのZENにはそんな奥深い仕様が隠されていたのですね、夜に同乗させてもらいましたが確かに会話がしやすかったです。

    あ、ちなみにルーテシア3とカエルかおのマーチはシャシー共用ですよ。

    • あぁ、目立たないってのは意外とメリットですよね(笑)。いや、ホント良いクルマです。ところで……
        
      >>ルーテシア3とカエルかおのマーチはシャシー共用ですよ
      MAJIか!あぁ、K型マーチがどんどん好きになっていく……。

  • ボリュームたっぷりの試乗記、大変恐縮です。
    日頃、我がZENもオーナー本人も他人にポジティブな評価をいただける場面がほとんど無い(爆)ため、とても嬉しいやら気恥ずかしいやらですww
    実はろまんちっく村で解散後、しまの助様を夜飯&延長戦にお誘いさせていただきました。しまの助様、その節は大変ありがとうございました!
    その席上、話題に上がった両車の共通点として「MT専用車」という点があります。この車種・このエンジンの組み合わせにおいては、両車ともハンドルの左右にかかわらずAT仕様が存在しません。
    手動クラッチ・手動変速のパワートレーンでは、当然ながらATと比べてトルク変動が大きくなり、人間的なブレも入り込みます。商品企画上ATを用意しないと決めた場合、例えばエンジンマウントなんかはMTに特化した作りにすることが可能になるかもしれません。駆動系やサス設計もMTのみをターゲットにできる可能性が考えられます。acatsuki-studio様が指摘なさっている「世代を超えた乗り味の一貫性」は、商品企画的な要素も源流にあるのかもしれません。そのへんもルノーらしさ全開ではあります(笑)。

    ZEN純正オーディオについて…一応お断りしておきますが、これは私がチューニングしたわけではなく、あくまでルノーの連中が仕上げたものですww 私は何もいじっていません。
    音量については、それなりの期間使っていれば、おそらくどなたでも同じような音量になるのではないかと思います。いろいろ試した結果フラット設定で音量10くらい…というところに落ち着きました。もちろん聴く音楽ジャンルでもバランスと最適音量は変わってくるでしょう。
    純正スピーカーユニットが本当にフォーカル製かどうかは確証が得られませんでした。少ない情報を元にした予想に過ぎず申し訳ありません。しかしこの世代のルノー各車は、車種ごとに純正アップグレードスピーカーセットがオプション(ディーラーオプション?)として用意されており、それらは明確にフォーカル製と謳っておりました。
    カーオーディオに興味が無いと言えば噓になりますが、これもとても深~い沼だということも重々承知しております(笑)。私は基本的にホームオーディオ専門(趣味歴はクルマより長い)であり、すでにこの沼のそれなりの深さにおりますので、カーオーディオ沼に入るのは避けたいところですww

    長々と失礼いたしました。acatsuki-studio様はじめ、皆様のコメントもとても嬉しいです!

    • ルノー各車が一般人から評価されにくいのはわかります。自動車の動作傾向とか運転所作との関連性ってのは、感知しよう、気付こうと意識しなければ永遠に気付けないと思うのです。ワンボックスの後部座席に液晶モニターが付いていることが最優先課題の人に、あの後輪動作の美しさはわかりますまい。でもそれでいいんですよ。これがダイバーシティ!これが多様性!!
        
      まじめな話、MT専用ってのは初めて理解しました。だとすると仕様違いでもいいからAT版のルーテシアにも乗ってみたいですねぇ。ごく初歩的な疑問なんですが、エンジンマウントってATだと緩くできるんじゃないかと思っているのです。横置きエンジンはマウントの前後方向の揺れが不可避じゃないですか。しゃくりってやつ。それをATと電子アクセルの協調制御で消す代わりに立ち上がりもっさりってやつ。ということはですよ?MT前提ならマウントも固めにできるってこと?や、実はシトロエン C3のしゃくりがめっちゃ酷くて(笑)。まぁ3気筒なんでそもそもブルブル震えてるってのはありますけど(笑)。アイシンAWの6速ATでしゃくらせず発信する実験をいつもしているのですが、難しいです。MTの方がいろいろいいじゃん! ←乱暴
        
      オーディオは結局好き好きですから、本人がこれでいいならこれでいいんですよ。わたしがカーオーディオのことをあれこれ書くのは「こういう方向性に従ってこういう方法もありますよ」と事例提示をしているだけで、これが最高!これこそ至高!!とか言いたいわけではありません。だからこそルノー純正の音質チューニングに驚いたわけですよ。決して高価な部品を使えるわけじゃないけど、それを逆手にとって居心地良い車内環境に貢献するとは、見識って大事ですね。
        
      もしドア内張を外す機会があれば、ホントにフォーカル製かどうかチェックお願いします(笑)。フォーカル、2万円弱のユニットでゴキゲンでしたからねぇ。ちなみに今私のロードスターに搭載しているブラムというブランドは、元フォーカルのエンジニアが独立して立ち上げたブランドだっちゅーことで、音質傾向は似てると思ってます。ご参考までに。

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